母が亡くなり、相続の手続きを考えています。
私には兄がおり、母の生前は池田市にある家で母と同居していました。
その池田市にある土地と建物は兄が結婚した際に母から生前贈与されたものです。
この不動産(土地と建物)は特別受益にあたることは兄も認めているのですが、兄は「贈与された建物をその後、取り壊して建て直しているのだから、その分を特別受益の評価額から差し引くべきだ」と言っています。
兄の言い分は正しいのでしょうか。

司法書士

結論から言うと池田市にあるという建物の評価額についての、お兄様の主張は正しくありません。
特別受益として得たものがその後、取り壊し等によって滅失したとしても、相続開始の時に原状のままある物として評価することになります。

特別受益とは → 質問3-6

特別受益の評価とは(2) → 質問3-8

超過特別受益とは → 質問3-9

持ち戻しの免除とは → 質問3-10

1.特別受益の評価の基準時

まず、特別受益として得た利益についての評価の基準時は一般的に相続開始時と考えられています。
特別受益として得たものが金銭であったとしても、同じと考えられています。

「贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価値をもって評価すべき」であるとし、このように考えないと「相続分の前渡しとしての意義を有する特別受益の価格を相続財産の価格に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持ち戻しの趣旨を没却することとなる」からです。

最判昭和51年3月18日(民集30巻2号111頁)

なので、今回のご相談でもお兄様が贈与された建物を相続開始時(お母さまが亡くなられた時)を基準して評価されることになります。

2.贈与を受けた財産の受贈者(贈与された者)の行為による滅失等について

次に、今回のご相談では、お兄様が贈与された建物は既に建て直しのために亡くなっているということですので、このような場合についても特別受益は残っているのかということをお聞きになりたいのだと思います。
このように特別受益として得たものが、その後に滅失した場合については民法が次のように定めています。

受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

民法904条

従いまして、今回のご相談者のお兄様が贈与された建物がたとえ取り壊されていても、相続開始時にまだあるものとして、評価されることになります。