私は池田市内の持ち家に住んでおります。夫が亡くなりましたので、現在住んでいる池田市内の夫名義の土地と建物の不動産類と、預貯金、株式等を相続することになりました。
夫は遺言を残しており、不動産については私に残すとされていました。
私と夫との間には子はおりませんが、私と夫は再婚同士で、夫には前妻との間に娘と息子がおります。
娘が申しますには、夫の遺言にある私への不動産の贈与は特別受益にあたるのだから、その分を私の相続分から差し引くべきだというのです。
娘の言っていることは正しいのでしょうか。

司法書士

特別受益があった場合にその価格を相続開始時の財産の価格に加算したものを相続財産とみなす、特別受益財産の持ち戻しは「本来あるべき」相続財産を具体的相続分の計算の前提とすることによって、相続人間の公平を実現しようとするものです。
なので、原則として特別受益があった場合にはその価格を持ち戻すことになります。
しかし民法は以下のように、いくつかの例外を定めており、今回のご相談者様にはこの例外規定が適用されそうです。

特別受益とは → 質問3-6

特別受益の評価とは(1) → 質問3-7

超過特別受益とは → 質問3-9

1.持ち戻しを免除することを被相続人(亡くなられて相続の対象となる方)が意思表示している場合。

まず、民法は次のように定めています。

(特別受益者の相続分)
民法903条
1項 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2項 -略-
3項 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

この被相続人の意思表示は遺言などで明示的になされることもありますが、生前の被相続人の意思が黙示的に表されている場合でも良いとされています。
例えば、生前の被相続人の言動から例え贈与する財産が特別受益にあたるとしても持ち戻しを免除する意思があったと客観的に考えられるのであれば持ち戻し免除の意思表示があったと考えられます。

2.居住用不動産に関する持ち戻し免除の特例

婚姻期間が20年以上ある夫婦の間で居住用不動産の贈与等がなされた場合、その居住用不動産は夫婦の長期の協力によって築かれた財産であること、居住用不動産の贈与は配偶者の老後の生活を保障するものとして意図されたものと定型的に考えられることから、持ち戻しの免除が認められています。

民法903条
4項 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

今回のご相談では遺贈された不動産は居住用不動産と思われますので、婚姻期間が20年以上であれば、民法903条4項により持ち戻しが免除されることになります。

3.補足(遺贈があった場合の「持ち戻し」の意味)

遺贈について持ち戻しの免除がなされたときは、その遺贈を除外した相続財産が具体的相続分を計算するする際のみなし相続財産となります。