少し前に父が亡くなり、家族で相続をどうするかを話し合っていたのですが、預貯金の残額や父が住んでいた池田市内にある不動産の登記情報を調べていますと、勝手に相続登記がされており、一部が差し押さえられているようなのです。
兄弟に話を聞くと、どうやら借金があり、その借入先が差し押さえの登記を行っているようです。
本人はこれ以上迷惑をかけられないから相続は放棄すると言っているのですが、すでに差し押さえの登記がされているのに今更、相続放棄はできるのでしょうか。

司法書士

相続放棄を行うには期間制限がありますので、その期間内であれば相続放棄を行うことは可能です。
例え不動産に差し押さえた旨が登記されていたとしても、相続放棄を行うことで差し押さえは無効になります。

法定相続人とは → 質問1-1

法定相続分とは → 質問3-1

再転相続と相続放棄 → 質問6-2

相続放棄と新相続人 → 質問6-3

相続放棄の取り消し → 質問6-4

1.相続放棄の遡及効

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
このように相続放棄によって「初めから」相続人とならなかったという効力を相続放棄の遡及効といいます。
この相続放棄の遡及効は絶対的な効力があり、第三者を保護する観点から相続放棄の遡及効を制限するような規定はありません。

2.相続放棄者と登記の取得者との対抗関係

上記の通り相続放棄は絶対的な効力を持つとされていますので、ある相続人が相続放棄をした場合、相続によって新たに土地を(または土地の持ち分を)取得した人は、誰に対しても登記することなく、その権利取得を主張することができます。

民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、相 続開始の時にさかのぼつてその効果を生ずる。」の規定は、相続放棄者に対する関 係では、右改正後の現行規定「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初か ら相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、民法が承認、 放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に 承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであ り、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法九三八条)、相続人 は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、こ の効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべき である。

最判昭和42年1月20日民集第21巻1号16頁

3.差し押さえがされた不動産と相続放棄に関する今回のご相談について

今回のご相談のように相続人の1人にお金を貸している債権者が、貸したお金を回収しようと法定相続分での相続登記を行って、持分を差し押さえたとしても、その相続人が相続放棄をすると、相続放棄者は初めから不動産の権利を取得したことにはならないので、差し押さえの登記は無効となります。
もし、相続放棄の遡及効が制限されて差し押さえが有効となれば、相続放棄をした元相続人は被相続人の財産から自身の借金を返済できるにもかかわらず、相続していれば負担するはずの相続人の債務(亡くなった方のローン等)は免れることになって不公平だからとされています。

以上より、ご相談において相続放棄をするとおっしゃられている方が、本当に相続放棄をするつもりがあり、相続放棄の期間制限にも違反していないのであれば、相続放棄をすることは可能ですし、差し押さえの登記は無効となります。

相続放棄と登記 → 事例紹介

相続放棄が可能な期間 → 事例紹介

再転相続人の相続放棄 → 事例紹介

再転相続の場合の熟慮期間 → 事例紹介