前々回の池田市I.F.さんの相続放棄についてのご相談の続きです。
前々回のご相談 → 事例紹介
ご相談の概要は祖父と父の2人が続けて亡くなった場合に両者について相続放棄ができるのか、相続放棄はどの順番で行えばいいのかというものでした。
結論だけ繰り返しますと、ある方Aが亡くなり、その方について相続するか相続放棄をするかを判断しないままにその方の相続人Bも亡くなってしまった場合でも、そのBの相続人CはAについてもBについても相続放棄を行うことができる。ただし、両者とも相続放棄をする場合にはまず、Aの相続放棄から始めなければならないというものでした。
相続放棄をするには亡くなった方の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続放棄をするかしないかを決めなければなりません。
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
民法第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
そして、ご相談のようにお2人が続けて亡くなられた場合には次のように定められています。
民法第九百十六条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
この条文について、3か月の期間を数え始める起算点について、初めの相続(第一次相続)の起算点を次の相続(第二次相続)の起算点に合わせるのか、それとも第一次相続は第二次相続とは別に考えるのかについて争われた事案があります。
事案の概要は次のようなものです。
1 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 株式会社みずほ銀行は,南大阪食肉市場株式会社に対して貸金等の支払を求めるとともに,A外4名に対し,上記貸金等に係る連帯保証債務の履行として各8000万円の支払を求める訴訟を提起した。平成24年6月7日,みずほ銀行の請求をいずれも認容する判決が言い渡され,その後,同判決は確定した(以下,この判決を「本件確定判決」という。)。
(2)ア Aは,平成24年6月30日,死亡した。Aの相続人は,妻及び2名の子らであったが,同年9月,当該子らによる相続放棄の申述が受理された。
イ 上記の相続放棄により,Aのきょうだい4名及び既に死亡していたAのきょうだい2名の子ら7名(合計11名)がAの相続人となったが,平成25年6月,これらの相続人のうち,B(Aの弟)外1名を除く9名による相続放棄の申述が受理された。
(3) Bは,平成24年10月19日,自己がAの相続人となったことを知らず,Aからの相続について相続放棄の申述をすることなく死亡した。Bの相続人は,妻及び子である被上告人外1名であった。被上告人は,同日頃,被上告人がBの相続人となったことを知った。
(4) みずほ銀行は,平成27年6月,上告人に対し,本件確定判決に係る債権を譲渡し,南大阪食肉市場に対し,内容証明郵便により上記の債権譲渡を通知した。
(5)ア 上告人は,平成27年11月2日,本件確定判決の正本(以下「本件債務名義」という。)に基づき,みずほ銀行の承継人である上告人が,Aの承継人である被上告人に対して本件債務名義に係る請求権につき32分の1の額の範囲で強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受けた。
イ 被上告人は,平成27年11月11日,本件債務名義,上記承継執行文の謄本等の送達(以下「本件送達」という。)を受けた。被上告人は,本件送達により,BがAの相続人であり,被上告人がBからAの相続人としての地位を承継していた事実を知った。
(6) 被上告人は,平成28年2月5日,Aからの相続について相続放棄の申述をし,同月12日,上記申述は受理された(以下,この相続放棄を「本件相続放棄」という。)。
2 本件は,被上告人が,上告人に対し,本件相続放棄を異議の事由として,執行文の付与された本件債務名義に基づく被上告人に対する強制執行を許さないことを求める執行文付与に対する異議の訴えである。甲が死亡し,その相続人である乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡し,丙が乙の相続人となった
いわゆる再転相続に関し,民法916条は,同法915条1項の規定する相続の承認又は放棄をすべき3箇月の期間(以下「熟慮期間」という。)は,「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算する旨を規定しているところ,本件では,Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間がいつから起算されるかが争われている。
この様な事案について最高裁判所は熟慮期間の起算について次のように判断しました。
(1) 相続の承認又は放棄の制度は,相続人に対し,被相続人の権利義務の承継を強制するのではなく,被相続人から相続財産を承継するか否かについて選択する機会を与えるものである。熟慮期間は,相続人が相続について承認又は放棄のいずれかを選択するに当たり,被相続人から相続すべき相続財産につき,積極及び消極
最判令和元年8月9日 民集 第73巻3号293頁
の財産の有無,その状況等を調査し,熟慮するための期間である。
そして,相続人は,自己が被相続人の相続人となったことを知らなければ,当該被相続人からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできないのであるから,民法915条1項本文が熟慮期間の起算点として定める「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,原則として,相続人が相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が相続人となった事実を知った時をいうものと解される(最高裁昭和57年(オ)第82号同59年4月27日第二小法廷判決・民集38巻6号698頁参照)。
(2) 民法916条の趣旨は,乙が甲からの相続について承認又は放棄をしないで死亡したときには,乙から甲の相続人としての地位を承継した丙において,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することになるという点に鑑みて,丙の認識に基づき,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点を定めることによって,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障することにあるというべきである。
再転相続人である丙は,自己のために乙からの相続が開始したことを知ったからといって,当然に乙が甲の相続人であったことを知り得るわけではない。また,丙は,乙からの相続により,甲からの相続について承認又は放棄を選択し得る乙の地位を承継してはいるものの,丙自身において,乙が甲の相続人であったことを知ら
なければ,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択することはできない。丙が,乙から甲の相続人としての地位を承継したことを知らないにもかかわらず,丙のために乙からの相続が開始したことを知ったことをもって,甲からの相続に係る熟慮期間が起算されるとすることは,丙に対し,甲からの相続について承認又は放棄のいずれかを選択する機会を保障する民法916条の趣旨に反する。
以上によれば,民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうも
のと解すべきである。
なお,甲からの相続に係る丙の熟慮期間の起算点について,乙において自己が甲の相続人であることを知っていたか否かにかかわらず民法916条が適用されることは,同条がその適用がある場面につき,「相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したとき」とのみ規定していること及び同条の前記趣旨から明らかである。(3) 前記事実関係等によれば,被上告人は,平成27年11月11日の本件送達により,BからAの相続人としての地位を自己が承継した事実を知ったというのであるから,Aからの相続に係る被上告人の熟慮期間は,本件送達の時から起算される。そうすると,平成28年2月5日に申述がされた本件相続放棄は,熟慮期間
内にされたものとして有効である。
このように再転相続の場合でも第一次相続の熟慮期間の起算点は自身が第一次相続を知った時から起算されることになります。
相続放棄と差し押さえ → 質問6-1
相続放棄と二重の相続 → 質問6-2
相続放棄による相続順位の繰り上がり → 質問6-3
相続放棄の取り消し → 質問6-4
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
池田市・豊中市・箕面市などの北摂地域や大阪市での相続登記はルピナス司法書士事務所にご相談を
相続した不動産の名義変更にまつわる煩雑な手続きを貴方専任の司法書士がサポートします。
お電話、Eメール、ラインからでも、ご相談いただけます。