豊中市D.H.さん

先日亡くなった夫の相続についてのご相談です。
夫や私と長女、三女の4人は豊中市内の自宅に暮らしていたのですが、先日夫が亡くなりました。
そこで豊中市内の土地と建物を相続することになったのですが、登記簿をみると、土地と建物の登記名義を次女のものにした上に、他人に売買の予約についての仮登記というものがされていることが分かりました。
次女が勝手に私たちの実印を持ち出したのかわかりませんが、遺産分割について何も話し合ってはおりませんし、私や他の姉妹も次女が単独で相続することを承諾した覚えはありません。
このような不正に行われた登記は抹消してほしいのですが、できるでしょうか。

司法書士

残念ながら、全部を抹消するということはできません。
すでに第三者名義の仮登記がある場合、次女さんの法定相続分については、その売買を予約しているという方に無効な登記であるということを主張することができないからです。
なので、完全に抹消しようとする場合はその仮登記の名義人と話し合って、登記の抹消を求めていくほかないと思われます。

共同相続した不動産の対抗要件としての登記

不動産を共同相続した場合に、その権利を第三者に主張できるようにするためには、相続して自身が権利者になりましたということを登記する必要があります。
そして遺産分割などで自分の法定相続分以上に、その不動産の権利を相続したとしても、その登記をしていない場合は法定相続分以上の部分については権利を相続したことを第三者に主張することはできないということを民法が定めています。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第八百九十九条の二 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない

これは不正な登記がなされていた場合でも同じです。
例えば共同相続した不動産の相続登記を怠っている場合に、相続人の一部が勝手に自己名義の登記を行ったうえに、第三者名義の登記もなされているという事案で最高裁判所は次のように判断しました。

相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。
けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院判決、民録二五輯一九四四頁参照)。
そして、この場合に甲がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大審院判決、民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集六〇巻七六七頁参照)。
けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎないからである。
従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所有権の移転登記をした他の共同相続人であるDから売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した被上告人らに対し、その登記の全部抹消登記手続を求めたのに対し、原判決が、Dが有する持分九分の二についての仮登記に更正登記手続を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更正登記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲内でその分量的な一部を認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申立てない事項について判決をした違法はないから、所論は理由なく排斥を免れない。

最判昭和38年2月22日 民集 第17巻1号235頁

このように、権利を第三者に主張出来るようにするためには、きちんと相続登記を行っておく必要があります。
相続登記をしていないと、いつこのような紛争に巻き込まれるか分かりませんので注意しなければなりません。

法定相続分とは → 質問1-4

遺産分割協議の仕方 → 質問4-2

相続登記を省略できるか → 質問5-3

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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