娘がお付き合いしていた方が箕面市内の病院で癌により亡くなりました。しばらく前から癌であることはわかってはいたのですが、その治療過程で将来的なことも考えて精子を保存していたようなのです。相談は娘がこの精子を用いて彼の子供を授かると言ってきかないことです。
彼も子供を作ってほしいと言っていたというのですが、私には分かりません。
そもそも、生まれてきた子供は彼の子供と認められるのでしょうか。彼はいくらかの財産を残しているようなのですが、遺言は無いようですし、彼の子供と認められなければ彼を相続することもできないのではないでしょうか。
生まれてくる子供が亡くなられた方の子供として認められることは現状では難しく、娘さんの非嫡出子という扱いになります。
なので、亡くなられた方を相続することはありません。
結局は娘さんの決意次第ということになりますが、娘さんの気持ちにに寄り添いながら、じっくりと考えるように諭すしかないように思われます。
亡くなった男性の保存精子を用いて生まれた子の親子関係
病気の治療による副作用などを考慮して精子を保存しておくことが行われることがあります。
そしてその男性が亡くなった後に、保存しておいた精子を用いて人工授精により子供を授かった場合に、その子供の親子関係はどうなるのか、特に亡くなった男性と生まれた子供の間に親子関係は認められるのかが争われた事案があります。
事案の概要は次のようなものでした。
(1) AとBは,平成9年▲月▲日に婚姻した夫婦(以下「本件夫婦」という。)である。
(2) Aは,婚姻前から,慢性骨髄性白血病の治療を受けており,婚姻から約半年後,骨髄移植手術を行うことが決まった。本件夫婦は,婚姻後,不妊治療を受けていたが,Bが懐胎するには至らず,Aが骨髄移植手術に伴い大量の放射線照射を受けることにより無精子症になることを危ぐし,平成10年6月,a県b市に所在
する病院において,Aの精子を冷凍保存した(以下,この冷凍保存した精子を「本件保存精子」という。)。
(3) Aは,平成10年夏ころ,骨髄移植手術を受ける前に,Bに対し,自分が死亡するようなことがあってもBが再婚しないのであれば,自分の子を生んでほしいという話をした。また,Aは,骨髄移植手術を受けた直後,同人の両親に対し,自分に何かあった場合には,Bに本件保存精子を用いて子を授かり,家を継いでもらいたいとの意向を伝え,さらに,その後,Aの弟及び叔母に対しても,同様の意向を伝えた。
(4) 本件夫婦は,Aの骨髄移植手術が成功して同人が職場復帰をした平成11年5月,不妊治療を再開することとし,同年8月末ころ,c県d市に所在する病院から,本件保存精子を受け入れ,これを用いて体外受精を行うことについて承諾が得られた。しかし,Aは,その実施に至る前の同年9月▲日に死亡した。
(5) Bは,Aの死亡後,同人の両親と相談の上,本件保存精子を用いて体外受精を行うことを決意し,平成12年中に,上記病院において,本件保存精子を用いた体外受精を行い,平成13年5月▲日,これにより懐胎した被上告人を出産した。
このような事情の下で生まれた子供が,検察官に対し,Aの子であることについて死後認知を求めたというものです。最高裁判所は次のように判断しました。
民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。
最判平成18年9月4日 民集 第60巻7号2563頁
ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定し
ていないことは,明らかである。
すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため,親権に関しては,父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はなく,扶養等に関しては,死後懐胎子が父から監護,養育,扶養を受けることはあり得ず,相続に関しては,死後懐胎子は父の相続人になり得ないものである。また,代襲相続は,代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度であることに照らすと,代襲原因が死亡の場合には,代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならないと解されるから,被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は,父との関係で代襲相続人にもなり得ないというべきである。
このように,死後懐胎子と死亡した父との関係は,上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである。
そうすると,その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は,本来的には,死亡した者の保存精子用いる人工生殖に関する生命倫理,生まれてくる子の福祉,親子関係や親族関係を形成されることになる関係者
の意識,更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず,そのような立法がない以上,死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。
このように「立法によって解決されるべき問題である」とされていることから将来的なことはどうなるのか分かりませんが、少なくとも現時点では特別な立法はなされていないことから、ご相談においても生まれた子供が亡くなられた方の子供として認められることはないと思われます。
胎児と遺産分割 → 質問4-3
認知と遺産分割 → 質問4-4
死後認知 → 事例紹介
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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