私の兄は池田市内に不動産を有しており、妻と2人で暮らしておりました。
兄夫婦には子供はなく、私と兄の両親も既に亡くなっています。
兄が亡くなったときに兄の妻と私と弟で、その池田市内の不動産を法定相続分で相続したのですが、その後、兄の妻も亡くなりました。
不動産の登記はそのままだったのですが、先日、兄の妻の特別縁故者と名乗る方が来て、兄の妻の持分を譲り受けるというのです。
そこで、いろいろと調べてみたのですが、民法では持分権利者に相続人がいないときは共有者に、その持分が与えられるようなのですが、この理解は間違っているのでしょうか。
確かに民法255条にはそのように規定されていますが、最高裁判所は不動産の共有者より、特別縁故者を優先すると判断しています。
ただ、特別縁故者は自称しているだけでは認められず、裁判所の審判で認められる必要がありますので、本当に特別縁故者として認められているのかを確認することが肝要です。
特別縁故者として認められているのであれば、裁判所が認めた範囲内で、池田市内にあるという不動産の相続に関しては特別縁故者が優先することになります。
1.相続人がいないときの2つの民法の規定
まず、1つ目の規定は共有持分に関する次の規定です。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
そして、2つ目は特別縁故者に関する次の規定です。
(権利を主張する者がない場合)
第九百五十八条 第九百五十二条第二項の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の二 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
このように、相続人がいないときに関する2つの規定があることから、どちらが優先するのかが問題とされていました。
この問題答えたの次の最高裁判所の判断です。
共有持分権の帰属について共有者より特別縁故者を優先した判例
昭和三七年法律第四〇号による改正前の法は、相続人不存在の場合の相続財産の国庫帰属に至る手続として、九五一条から九五八条において、相続財産法人の成立、相続財産管理人の選任、相続債権者及び受遺者に対する債権申出の公告、相続人捜索の公告の手続を規定し、九五九条一項において「前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続財産は、国庫に帰属する。」と規定していた。
最判平成元年11月24日民集43巻10号1220号
右一連の手続関係からみれば、右九五九条一項の規定は、相続人が存在しないこと、並びに、相続債権者及び受遺者との関係において一切の清算手続を終了した上、なお相続財産がこれを承継すべき者のないまま残存することが確定した場合に、右財産が国庫に帰属することを定めたものと解すべきである。
他方、法二五五条は、「共有者ノ一人カ……相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス」と規定しているが、この規定は、相続財産が共有持分の場合にも相続人不存在の場合の前記取扱いを貫くと、国と他の共有者との間に共有関係が生じ、国としても財産管理上の手数がかかるなど不便であり、また、そうすべき実益もないので、むしろ、そのような場合にはその持分を他の共有者に帰属させた方がよいという考慮から、相続財産の国庫帰属に対する例外として設けられたものであり、法二五五条は法九五九条一項の特別規定であったと解すべきである。
したがって、法二五五条により共有持分である相続財産が他の共有者に帰属する時期は、相続財産が国庫に帰属する時期と時点を同じくするものであり、前記清算後なお当該相続財産が承継すべき者のないまま残存することが確定したときということになり、法二五五条にいう「相続人ナクシテ死亡シタルトキ」とは、相続人が存在しないこと、並びに、当該共有持分が前記清算後なお承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときと解するのが相当である。
ところで、昭和三七年法律第四〇号による法の一部改正により、特別縁故者に対する財産分与に関する法九五八条の三の規定が、相続財産の国庫帰属に至る一連の手続の中に新たに設けられたのであるが、同規定は、本来国庫に帰属すべき相続財産の全部又は一部を被相続人と特別の縁故があった者に分与する途を開き、右特別
縁故者を保護するとともに、特別縁故者の存否にかかわらず相続財産を国庫に帰属させることの不条理を避けようとするものであり、そこには、被相続人の合理的意思を推測探究し、いわば遺贈ないし死因贈与制度を補充する趣旨も含まれているものと解される。
そして、右九五八条の三の規定の新設に伴い、従前の法九五九条一項の規定が法九五九条として「前条の規定によつて処分されなかつた相続財産は、国庫に帰属する。」と改められ、その結果、相続人なくして死亡した者の相続財産の国庫帰属の時期が特別縁故者に対する財産分与手続の終了後とされ、従前の法九五九条一項の
特別規定である法二五五条による共有持分の他の共有者への帰属時期も右財産分与手続の終了後とされることとなったのである。この場合、右共有持分は法二五五条により当然に他の共有者に帰属し、法九五八条の三に基づく特別縁故者への財産分与の対象にはなりえないと解するとすれば、共有持分以外の相続財産は右財産分与の対象となるのに、共有持分である相続財産は右財産分与の対象にならないことになり、同じ相続財産でありながら何故に区別して取り扱うのか合理的な理由がないのみならず、共有持分である相続財産であっても、相続債権者や受遺者に対する弁済のため必要があるときは、相続財産管理人は、これを換価することができるところ、これを換価して弁済したのちに残った現金については特別縁故者への財産分与の対象となるのに、換価しなかった共有持分である相続財産は右財産分与の対象にならないということになり、不合理である。
さらに、被相続人の療養看護に努めた内縁の妻や事実上の養子など被相続人と特別の縁故があった者が、たまたま遺言等がされていなかったため相続財産から何らの分与をも受けえない場合にそなえて、家庭裁判所の審判による特別縁故者への財産分与の制度が設けられているにもかかわらず、相続財産が共有持分であるというだけでその分与を受けることができないというのも、いかにも不合理である。
これに対し、右のような場合には、共有持分も特別縁故者への財産分与の対象となり、右分与がされなかった場合にはじめて他の共有者に帰属すると解する場合には、特別縁故者を保護することが可能となり、被相続人の意思にも合致すると思われる場合があるとともに、家庭裁判所における相当性の判断を通して特別縁故者と他の共有者のいずれに共有持分を与えるのが妥当であるかを考慮することが可能となり、具体的妥当性を図ることができるのである。
したがって、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その共有持分は、他の相続財産とともに、法九五八条の三の規定に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされず、当該共有持分が承継すべき者のないまま相続財産として残存することが確定したときにはじめて、法二五五条により他の共有者に帰属することになると解すべきである。
このように、共有者の1人が死亡して、民法所定の手続きを経て相続人がいないことが確定された時は、家庭裁判所の審判によって特別縁故者への財産分与がなされることになります。
この審判によっても特別縁故者への財産分与がされなかった部分については民法255条によって共有者に帰属することになります。
法定相続分とは → 質問3-1
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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