箕面市 T.B. さん

私の親友は若いころに箕面市内の土地と建物を購入して、そこで妻と3人の子供とで暮らしていました。奥さんは10数年前に亡くなり、その時に箕面市の不動産も含めてどのように相続してほしいかを遺言で残していたそうです。
その遺言では不動産は長男に、その他の財産は弟と妹で分けるようにしたそうなのですが数年前に長男と仲たがいしたそうで、不動産は妹に相続させるという遺言に書き直し、その際、私を遺言執行者としました。
ところが、先日その親友が亡くなった後に、長男が前の遺言書で自分名義の相続登記を行ったという話を聞き、法務局で登記を確認すると確かにその通りになっていました。
長男と話し合いの席を設けたのですが、相続させる旨の遺言があれば、初めからその内容で相続されるのだから遺言執行者の出る幕は無いと言われてしまいました。
何とかして親友に託された遺言の内容を実現してあげたいのですが、私には何の権限もないのでしょうか。

司法書士

確かに「相続させる旨の遺言があれば、初めからその内容で相続される」というのはその通りですが、その場合でも遺言の内容を実現するための権限は遺言執行者にもありますので、遺言の内容に反する行為については遺言執行者が是正を求めることはできます。
ただ、今回の場合は長男さんの法定相続分を超える3分の2については取り戻しを請求できますが、法定相続分については先に登記をされてしまっていますので、このままでは妹さんへ戻すことは難しくなると思われます。
もう一度、長男さんと話って見ることをお勧めします。

相続させる旨の遺言がある場合に遺言執行者になにができるのか。

特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合に遺言執行者が指定されてるときに、その遺言執行者の権限はどのようなものかが争われた裁判があります。
この裁判の控訴審では次のように判断されて、このような遺言がある場合の相続財産については遺言で指定された各相続人が権限を有するのであって、遺言執行者の権限は無いとされました。

新遺言は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨のものであり、右相続人らは、被相続人の死亡の時に遺言に指定された持分割合により本件各土地の所有権を取得したものというべきである。
そして、この場合には、当該相続人は、自らその旨の所有権移転登記手続をすることができ、仮に右遺言の内容に反する登記がされたとしても、自ら所有権に基づく妨害排除請求としてその抹消を求める訴えを提起することができるから、当該不動産について遺言執行の余地はなく、遺言執行者は、遺言の執行として相続人への所有権移転登記手続をする権利又は義務を有するものではない。

しかし最高裁判所は次のように判断して遺言執行者にも一定の権限はあると判断しました。

1 特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第一七四号同三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号四七七頁参照)。
しかしながら、相続させる遺言が右のような即時の権利移転の効力を有するからといって、当該遺言の内容を具体的に実現するための執行行為が当然に不要になるというものではない。
 2 そして、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法一〇一二条一項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。
もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法二七条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成三年(オ)第一〇五七号同七年一月二
四日第三小法廷判決・裁判集民事一七四号六七頁参照)。
しかし、【要旨】本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己
名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。
この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。
 3 したがって、一審原告は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告B3に対する本件訴えの原告適格を有するというべきである。

最判平成11年12月16日 民集 第53巻9号1989頁

このように特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合でも、遺言執行者の権限は一途の範囲で認められますので、これと異なる内容の相続がなされている場合は、その是正を請求することはできます。
ただし、上記の判決が出された当時は、遺言執行者の行為に反する相続は無効とされていたのですが、現在は法律が変わり、法定相続分以上の権利を相続した場合は、その対抗要件(不動産でいうと「登記」)を経ない限りは第三者にその財産の取得を対抗できないとされています。
遺言執行者の就任した際には速やかに遺言の実現を実行するように求められることに注意が必要です。

「相続させる」遺言の解釈 → 事例紹介

負担付死因贈与の撤回 → 事例紹介

協議離縁と遺言の撤回 → 事例紹介

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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