箕面市 T.R. さん

今回のご相談は父が所有していた箕面市内の土地建物を含む相続のことです。
私は父のいわゆる婚外子になりますが、認知は受けています。
父は生前、妻(Aさん)と暮らしていたのですが、Aさんが一時的にですが入院することになって将来に不安になったようでAさんの親戚と養子縁組を行いました。その際、自分たちの面倒を見る替わりに財産をすべてその養子に遺贈するとの遺言を書いていたようです。
ところが、その養子があまり素行が良くなかったようで、父の財産を使い込んでいたことが発覚して結局、養子縁組は解消されることになりました。
その後は私と夫が父たちの生活の世話をしておりましたが、先日父が亡くなりました。
この時、元養子から先ほどの遺言の話が出てきたのです。
父たちの面倒を見ることを条件に遺贈の約束をしていたのですから、養子縁組が解消した時点で、遺言も無効になったのではないでしょうか。このまま父の財産が元養子のものになってしまい、Aさんや私が相続できないということは納得できません。

司法書士

民法上、原則として遺言の撤回は遺言でしかできないとされています。
しかし、例外として一定の事実が生じた場合には遺言を撤回したものとみなされると定められています。
今回のご相談のように、養子縁組の解消が、この例外にあたる「一定の事実」に該当すれば遺言は撤回されたものとみなされます。
問題は本当に「一定の事実」に該当するかですが、似たような事実関係で最高裁判所は該当すると判断した先例があります。
なので、今回のご相談でも遺言は撤回されたと判断される可能性も十分に見込めると思われます。

協議離縁が成立により、遺言を撤回したとみなされるか

遺言の撤回は原則として遺言の方式で行わなければなりません。遺言者の意思をが真実そうであったかを明確にするためには遺言という一定の方式を踏むべきだと考えられているからです。

(遺言の撤回)
民法第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

ただし、この原則を貫くと不合理な結果を生じかねないため、一定の例外はもうけられています。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
民法第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

ご相談においては、協議離縁が成立したことが「他の法律行為と抵触する場合」にあたるかが問題となりますが、過去にも次のような事案でこの点が問題とされました。

 1 D(明治二七年三月一〇日生)は、大正八年二月一二日E(明治三三年七月二四日生)と婚姻したが、Eとの間には実子はなく、Fとの間に出生した被上告人B1がただ一人の実子であつたが、同被上告人とは同居していなかつた。
 2 D夫婦は、昭和七年九月二八日Dの実弟Gと養子縁組したが、同人の妻とEとの折合いが悪く十数年後に別居し、また、昭和三五年六月二五日修作の子の被上告人B2と養子縁組したが、やはり同人の妻とEとの折合いが悪く数年後に別居した。その後D夫婦は、昭和四八年三月ころ実子である被上告人B1と同居したが、同人の妻とEとの折合いが悪く同年一〇月ころ別居した。
 3 ところで、その後Eが脳溢血で入院するということもあつたので、D夫婦は、終生老後の世話を託すべく、今度は妻Eの実家筋のH家から上告人らを養子として迎えることを希望した。これに対し、上告人らは当初難色を示したが、Dから「実子の被上告人B1には居住する家屋敷だけやれば十分であるから、もし上告人らが養子となりD夫婦を今後扶養してくれるならば、他の不動産を全部遺贈してもよい」との趣旨の申出を受けたので、これを承諾し、昭和四八年一二月二二日D夫婦と養子縁組したうえ、同夫婦と同居し共同生活を営みつつその扶養をしていた。
 4 そして、Dは、前記の約旨にしたがい、同月二八日公正証書により、その所有する現金、預貯金全部を妻のEに遺贈し、不動産のうち市川市ab丁目)c番宅地三六・一三平方メートルを被上告人B1に遺贈するが、その余の不動産全部を上告人両名に持分各二分の一として遺贈する旨の本件遺言をした。
 5 ところが、昭和四九年一〇月、上告人A及び実兄の訴外Iが経営していたJ株式会社が倒産したが、そのことにより上告人A及び訴外IがDに無断でD所有の不動産について右会社のK信用金庫に対する四億円の債務担保のため根抵当権設定等の登記をしていることが発覚した。そして、Dがこのことを知つて激怒したため、上告人A及び訴外Iは、六か月以内に右根抵当権設定登記等を抹消し、かつ、Dから右会社が借用していた一五〇〇万円を返還することを約し、その旨の念書をDに差し入れたが、右約束を履行するに至らなかつた。
 6 そこで、D夫婦は、上告人らに対し不信の念を深くして、上告人らに対し養子縁組を解消したい旨申し入れたところ、上告人らもこれを承諾したので、昭和五〇年八月二六日D夫婦と上告人らとの間で協議離縁が成立し、上告人らはD夫婦と別居した。
 7 上告人らは、別居後D夫婦を扶養せず、被上告人B1夫婦がD夫婦の身の廻りの世話をしていたが、Dは、昭和五二年一月八日死亡し、Eも同年二月一日死亡した。

この事案で最高裁判所は次のように判断しました。

 二 ところで、民法一〇二三条一項は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨定め、同条二項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨定めているが、その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないから、同条二項にいう抵触とは、単に、後の生前処分を実現しようとするときには前の遺言の執行が客観的に不能となるような場合にのみにとどまらず、諸般の事情より観察して後の生前処分が前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合をも包含するものと解するのが相当である。
そして、原審の適法に確定した前記一の事実関係によれば、Dは、上告人らから終生扶養を受けることを前提として上告人らと養子縁組したうえその所有する不動産の大半を上告人らに遺贈する旨の本件遺言をしたが、その後上告人らに対し不信の念を深くして上告人らとの間で協議離縁し、法律上も事実上も上告人らから扶養を受けないことにしたというのであるから、右協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきであり、したがつて、本件遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして前示民法の規定により取り消されたものとみなさざるをえない筋合いである。

最判昭和56年11月13日 民集 第35巻8号1251頁

このようにもともと信頼関係を前提にした養子縁組が、その信頼関係が揺らいだことを理由に解消された場合、遺言の前提とされていた事情も無に帰したとして、遺言が撤回されたとみなされるということがあります。

今回のご相談でも、お父様の意思はあくまでも養子縁組をして自分の生前の面倒を見るということの代償として遺贈を行うというものであったと言えそうですので、財産の使い込みという信頼関係を揺るがすような事情で養子縁組が解消された場合は遺言も撤回したとみなされると言えそうです。

負担付死因贈与の撤回 → 事例紹介

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この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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