豊中市 O.C. さん

私は豊中市内に生まれ、大学卒業後は転勤で各地を転々としながら、今は東京に住んでいます。豊中市内の実家は父と母が住んでおり、不動産の名義は父となっています。
今回の相談は、この豊中市にある不動産を含めた相続のことについてです。
父は生前、私と「父が生存中、私の給与の一部を父に贈与する代わり、父が亡くなった際に不動産を含む父の財産のすべてを私に贈与する」という死因贈与契約を交わしていました。
その契約に基づいて、私は父が亡くなるまで一定額を父に贈っていたのですが、父が亡くなった際に遺言を残していたことが判明しました。
その遺言には豊中市の不動産は弟に、預金の一部は妹に、残りの財産は母と私たち兄弟で均等に分けて相続させるものとされていました。
私もそろそろ定年を迎え、豊中の実家に戻ろうと思っていたのですが、弟は死因贈与は遺言によって撤回されているのだから豊中の不動産は自分が相続すると言っています。
私は豊中の不動産を相続できるものと思って、父との契約を守ってきたのに遺言で撤回されるなんて納得できません。

司法書士

弟さんの主張は、
(1)死因贈与には遺贈の規定が準用される、
(2)いつでも、遺言で、前にした遺言の全部又は一部を撤回することができる、
ので、最終的な遺言によって豊中の不動産は自分が相続すると言っておられるのだと思います。
しかし、最高裁判所は今回のご相談のような負担付の死因贈与については原則としてこれらの条文の準用は無いと判断していますので、弟さんの主張には無理があると考えます。

負担付死因贈与が行われ、負担が履行された場合に、その贈与を撤回できるか

死因贈与には遺贈の規定が準用される結果、のちの遺言で死因贈与撤回することもできると考えられています。

民法
(死因贈与)
第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

しかし、この死因贈与が負担付であった場合に、その負担を履行していたにもかかわらず、遺言のより一方的に贈与が撤回されるとなると、負担を履行していた贈与を受けた人は予期しない損害を被る可能性があり、一切保護されないのは不合理です。
そこで最高裁判所は、この場合の救済を認めます。

負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合においては、贈与者の最終意思を尊重するの余り受贈者の利益を犠牲にすることは相当でないから、右贈与契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、右契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右負担の履行状況にもかかわら
ず負担付死因贈与契約の全部又は一部の取消をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、遺言の取消に関する民法一〇二二条、一〇二三条の各規定を準用するのは相当でないと解すべきである。

最判昭和57年4月30日 民集 第36巻4号763頁

このように最高紗番所の判例では、公平性の観点から負担を履行した贈与を受けた人の利益を保護することを認めます。
ここで「特段の事情」があれば話は別だとされていますが、これは贈与を受けた人が贈与に関する恩を忘れたかのように贈与者にひどいことをしたり、贈与が行われたときから長い時間がたって大幅な事情変更が起きた場合などが想定されています。
今回のご相談でも「特段の事情」があるかどうかは一応問題とはなりますが、お聞きする限りではないように思われます。
弟さんとはもう一度話し合いの場を持つことをお勧めしますが、それでも話がまとまらない場合は訴訟を視野に入れる必要もあると思います。

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この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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