箕面市 F.C.さん

父の相続に際して遺言が出てきたのですが、内容が複雑で私たち相続人の間で話が行き詰っています。
私の父は材木店を営んでおり、箕面市内に資材置場も兼ねた事務所を持っていました。父の遺言にはこの箕面市内の不動産の相続のことが書かれていたのですが、まず、この不動産は母が相続する、ただし、材木店があるうちは土地を処分せずに相続人全員で土地を会社に貸した形にして、賃料を相続人で分けると等とされていました。
この遺言では前半で土地は母が相続するということにされているのですが、後半では全員で会社に貸した形にしろとされていますので、土地の所有権は母以外の相続人も含めて全員で共有しているような書きぶりになっています。
なので、相続人の中には遺言は無効だと言い出すものもいて困っています。

司法書士

遺言を拝見するとなかなか難しい内容の遺言のようです。
たしかに遺言の内容はお母さまにいったん相続させるがお母さまがその土地の一部を他の相続人の方に贈与する義務を負わせていると読むこともできますし、お母さまが亡くなられる前はお母さまは単に土地の使用権を持つに過ぎないとも読むこともでき、複数の読み方があるように思えます。
このような複数の読み方ができそうな遺言も、それだけで一律に無効とされることはなく、できるだけ遺言を残した方の意思を尊重する方向で解決が目指されます。
今回の遺言では遺言の文章自体では判別がつきませんので、遺言を残された時の故人の遺志を推測することが必要となります。
なので、一度、相続人の皆様でお父様の生前の意思がどのようなものであったのかを十分に話し合ってもらうしかありません。

不明確な遺言の解釈

遺言の内容が不明確である場合に、その遺言はどのように読めばいいのか、その際、遺言書の文章以外の事情を考慮しても良いのかが争われた事案があります。
事案の内容は次のようなものです。

 一 上告人らが本訴において主張するところは、(一) 主位的請求原因として、(1) 訴外D(以下単に「D」という。)は、昭和四九年三月七日に自筆の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成し、昭和五一年一〇月一七日に一部字句の訂正をした、(2) Dは、本件遺言書において、妻である被上告人の死亡を停止条件として、弟妹である上告人A1及び同A2に対し第一審判決別紙目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の持分各一〇分の一、同A3に対し同持分二〇分の三をそれぞれ遺贈する旨の遺言をした、(3) そして、Dは昭和五一年一二月二四日に死亡し、右のとおり遺贈の効力が生じた、(4) しかるに、被上告人は、Dから本件不動産の単純遺贈を受けたものとして、本件不動産につき長崎地方法務局時津出張所昭和五二年六月一三日受付第六一一八号をもつて遺贈を原因とする自己単独名義の所有権移転登記を経由した、(5) よつて、上告人らは、被上告人との間において、上告人らがDから前記のとおりの遺贈を受けたことの確認を求めるとともに、被上告人に対し、右登記の抹消登記手続を求める、というのであり、(二) 予備的請求原因として、(1) Dの遺言のうち本件不動産の遺贈に関する部分は、内容が不明確であつて、遺言者Dの真意を把握することができないから無効である、(2) よつて、上告人らは、被上告人との間において、右遺言部分が無効であることの確認を求める、というのである。

このような事案について原審は次のように遺言の内容は一部無効であると判断しました。

二 原審は、上告人らの右主張について判断するにあたり、(1) Dが本件遺言書により遺言をしたこと、(2) Dが昭和五一年一二月二四日に死亡したこと、(3) 本件遺言書に、Dの遺産の一部である本件不動産について、「被上告人にこれを遺贈する。」(以下「第一次遺贈の条項」という。)とあり、続いて、「被上告人の死亡後は、上告人A1二、訴外E二、上告人A2二、同A3三、訴外F三、
同G三、同H三、同I二の割合で権利分割所有す。但し、右の者らが死亡したときは、その相続人が権利を継承す。」(以下「第二次遺贈の条項」という。)と記載されていること、以上の事実を確定したうえ、右事実に基づいて、(1) 本件遺贈は、一般に「後継ぎ遺贈」といわれるものであつて、第一次受遺者の遺贈利益が、第二次受遺者の生存中に第一次受遺者が死亡することを停止条件として第二次受遺者に移転する、という特殊な遺贈である、(2) ところで、この種の遺贈は、受遺者に一定の債務を負担させる負担付遺贈とも異なり、現行法上これを律すべき明文の規定がない、(3) そのため、右遺贈を有効とした場合には、第一次受遺者の受ける遺贈利益の内容が定かではなく、また、第一次受遺者、第二次受遺者及び第三者の相互間における法律関係を明確にすることができず、実際上複雑な紛争を生ぜしめるおそれがある、(4) 関係者相互間の法律関係を律する明文の規定を設けていない現行法のもとにおいては、第二次受遺者の遺贈利益については法的保護が与えられていないものと解すべきである、(5) したがつて、上告人らに対する第二次遺贈の条項は、Dの希望を述べたにすぎないものというべきであり、また、被上告人に対する第一次遺贈の条項は、これとは別個独立の通常の遺贈として有効である、と判示した

たしかに遺言の内容が複雑であると無用な紛争を生じかねません。
ただ、せっかく遺言を残したのにそれを無効とすることには躊躇を覚えます。
そこで最高裁判所は次のように判断して、遺言の内容を再度、確定させるように原審に差し戻しました。

 三 しかしながら、右判断は、にわかに是認することができない。その理由は、次のとおりである。
遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮し
て遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。
  しかるに、原審は、本件遺言書の中から第一次遺贈及び第二次遺贈の各条項のみを抽出して、「後継ぎ遺贈」という類型にあてはめ、本件遺贈の趣旨を前記のとおり解釈するにすぎない。ところで、記録に徴すれば、本件遺言書は甲第一号証(検認調書謄本)に添付された遺言状と題する書面であり、その内容は上告理由書第一、一に引用されているとおりであることが窺われるのであつて、同遺言書には、(1) 第一次遺贈の条項の前に、Dが経営してきた合資会社J材木店のDなきあとの経営に関する条項、被上告人に対する生活保障に関する条項及びF及び被上告人に対する本件不動産以外の財産の遺贈に関する条項などが記載されていること、(2) ついで、本件不動産は右会社の経営中は置場として必要であるから一応そのままにして、と記載されたうえ、第二次遺贈の条項が記載されていること、(3) 続いて、本件不動産は換金でき難いため、右会社に賃貸しその収入を第二次遺贈の条項記載の割合で上告人らその他が取得するものとする旨記載されていること、(4) 更に、形見分けのことなどが記載されたあとに、被上告人が一括して遺贈を受けたことにした方が租税の負担が著しく軽くなるときには、被上告人が全部(又は一部)を相続したことにし、その後に前記の割合で分割するということにしても差し支えない旨記載されていることが明らかである。
右遺言書の記載によれば、Dの真意とするところは、第一次遺贈の条項は被上告人に対する単純遺贈であつて、第二次遺贈の条項はDの単なる希望を述べたにすぎないと解する余地もないではないが、本件遺言書による被上告人に対する遺贈につき遺贈の目的の一部である本件不動産の所有権を上告人らに対して移転すべき債務を被上告人に負担させた負担付遺贈であると解するか、また、上告人らに対しては、被上告人死亡時に本件不動産の所有権が被上告人に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が上告人らに移転するとの趣旨の遺贈であると解するか、更には、被上告人は遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、上告人らに対する被上告人の死亡を不確定期限とする遺贈であると解するか、の各余地も十分にありうるのである。原審としては、本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情などをも考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきであつたといわなければならない。
 四 以上によれば、前記原審認定の事実のみに基づき原審が判示するような解釈のもとに、被上告人に対する遺贈は通常のものであり、上告人らに対する遺贈はDの単なる希望を述べたにすぎないものである旨判断した原判決には、遺贈に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるか、又は審理不尽の違法があるものといわざるをえず、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は結局理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右の点について更に審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

最判昭和58年3月18日 集民 第138号277頁

遺言は自筆証書遺言の場合は誰に読まれることもなく1人で作成できますので、内容が不明確になりがちです。
今回のご相談でもせっかく相続に際して争いが生じないようにと遺言を残されたんでしょうが、結果として相続人の間で無用の混乱を引き起こしてしましました。
このような混乱を生じさせないためにも、遺言の作成を専門家に依頼することもご検討ください。

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この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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