池田市 O.E.さん

私の父は池田市内で複数の不動産を所有しており、賃貸業を営んでいました。今回の相談はその父の相続についてのことです。
私は養子なのですが若干、複雑でして、私の実際の父と母は私を生んだ当時、私を養う余裕がなかったようで、私を知人に育てててもらうこととして、その知人が私を嫡出子として出生届を提出しました。なので、戸籍上の父母は実際の父母ではありません。
ただ、その後、さらに現在の父に養子に出されました。養父は私を本当の子のようにかわいがってくれていたのですが、私を養子に迎えて数年後に実子も2人(弟と妹)生まれました。
そして問題が起きたのですが、その父が昨年亡くなったので、池田市内の不動産などの相続をどうするか弟たちと話し合おうと思っていたら、弟が「兄さんは法律上父さんの子ではないではないか。子ではないのだから相続もできないはずだ」と言ってきました。私の養子縁組を承諾できるのは私の実親であり、戸籍上の父母ではないというのです。
弟とはあまりそりが合わなかったのですが、私の生い立ちについては家族全員が知っていましたので、こんなことを言い出したのだと思います。たしかに仲はあまりよくなかったかもしれませんが、何十年と家族として過ごしてきて、これはひどいと思います。
私は父の相続人とはなれないのでしょうか。

司法書士

仮に養子縁組時の両親の承諾が無効であったとしても、ご本人が縁組を承諾できますので、現在の縁組に何の問題もありません。
なのでお父様の相続人であることに変わりはなく、弟さんと妹さんと3人で相続することになります。

1.無効な代諾養子縁組の追認

まず、未成年をようにする際には父母の承諾が必要になります。
ご相談のように、虚偽の出生届が提出されている場合には誰が「父母」として承諾できるのかが問題とされましたが、この点については最高裁判所が仮に承諾が無効であるとしても本人が追認できると判断しています。

民法が養子縁組を要式行為としていることは明瞭であるけれども、民法は一面において取消し得べき養子縁組について、追認によつて、その縁組の効力を確定せしめることを認めていることは、明文上明らか(旧民法八五三条、八五五条、新民法八〇四条、八〇六条、八〇七条)であつて、しかも、民法戸籍法を通してこの追認に関してその方式を規定したものは見当らないのであるから、この追認は、口頭によると、書面によると、明示たると黙示たるとを問わないものと解するの外はないのであつて、わが民法上、養子縁組が要式行為であるからと云つて、追認が、これと全く相容れないものの如く解することはあやまりである。(民法が追認を認めているのは、取消し得べき縁組についてであるけれども、前示各場合は、いずれも、縁組の成立の要件に違法のある場合であつて、その本質は無効と見るべき場合なのであるが、民法は、その結果の重大性に鑑み、又、多くは事実上の縁組関係が既成している事実関係に着目し、これを無効原因とせず、取消しの原因とした上、その追認又は時の経過により、その違法を払拭する途を拓いたのであつて、追認を以て縁組と本質的に相容れないものとは、民法は考えていないのである。)
旧民法八四三条の場合につき民法は追認に関する規定を設けていないし、民法総則の規定は、直接には、親族法上の行為に適用を見ないと解すべきであるが、十五歳未満の子の養子縁組に関する、家に在る父母の代諾は、法定代理に基くものであり、その代理権の欠缺した場合は一種の無権代理と解するを相当とするのであるから、民法総則の無権代理の追認に関する規定、及び前叙養子縁組の追認に関する規定の趣旨を類推して、旧民法八四三条の場合においても、養子は満十五歳に達した後は、父母にあらざるものの自己のために代諾した養子縁組を有効に追認することができるものと解するを相当とする。
しかして、この追認は、前示追認と同じく何らその方式についての規定はないのであるから、明示若しくは黙示をもつてすることができる。その意思表示は、満十五歳に達した養子から、養親の双方に対してなさるべきであり、養親の一方の死亡の後は、他の一方に対してすれば足るものであり、適法に追認がなされたときは、縁組は、これによつて、はじめから、有効となるものと解しなければならない。

最判昭和27年10月3日 民集 第6巻9号753頁

そして、実際の事件についても本人の追認を認めました。

しかして、前述のごとく、上告人A1代理人の原審において主張するところによれば、上告人A1は大正四年六月本件養子縁組の届出以後、(当時同人は三歳)上告人A2並びにその妻Fとの間に事実上の養子としての関係をつゞけ、A2が後妻Iを迎えて後も、同人夫妻との間に事実上の養親子関係を継続して本訴提起前既に三十年を経過したというのであつて、上告人A1が独立して養子縁組をすることの
できる年令(満十五歳)に達して後も、まさに二十年に垂んとするのである。(その間何人からも本件縁組の無効を主張する訴の提起された形迹もみとめられない)その上、上告人A1は昭和二二年一二月二三日上告人A2に対し書面をもつて右追認の意思表示をしたというのであるから、如上A1代理人が原審において主張するような事実関係が存在するならば、同上告人は少くとも上告人A2に対して本件縁組を追認したものと解すべきであるから原審としては、如上事実関係につき、その存否を審理し、果して、上告人A1が本件養子縁組を適法に追認したかどうかを確定しなければならない。
しかるに、原審は、たゞ、養子縁組が要式行為であるとの理由により、追認の法理を容れる余地なしと即断して、如上事実関係について、何ら審理するところなく上告人A1の抗弁を排斥したのは、法令の解釈を誤つたものと云わなければならない。

2.無効な代諾養子縁組の追認について第三者保護規定は適用されるか

無効な行為の追認は第三者の利益を侵害してならないとされていますので、今、述べてきた無効な代諾養子縁組の追認が第三者の利益を侵害するときはできないのではないかが、次に問題とされました。
今回の例でいうと弟さんの相続の利益が侵害されるのではないかということです。
この点について最高裁判所は次のように判断しました。

所論は、養子縁組の追認についても民法一一六条但書の規定が適用されることを前提とするものであるが、本件養子縁組の追認のごとき身分行為については、同条但書の規定は類推適用されないものと解するのが相当である。
けだし事実関係を重視する身分関係の本質にかんがみ、取引の安全のための同条但書の規定をこれに類
推適用することは、右本質に反すると考えられるからである。
したがつて、原判決が本件養子縁組の追認について、同条但書の規定を類推適用しなかつたのは、相当というべく、原判決には、所論のような違法はない。

最判昭和39年9月8日 民集 第18巻7号1423頁

このように最高裁判所は第三者保護規定は取引の安全のために設けられた規定であるため、取引行ではない身分行為には適用されないとしました。
これらのことから、今回のご相談でもご相談者はれっきとしたお父様の相続人となります。

特別養子縁組の再審事由 → 事例紹介

特別養子縁組の要件 → 事例紹介

虚偽の出生届と養子縁組 → 事例紹介

代理出産と親子関係 → 事例紹介

認知の無効 → 事例紹介

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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