池田市H.F. さん

叔父は池田市内に複数の不動産を持っていたのですが、そのうちの1件の土地と建物を私に相続させるとの遺言を残していました。叔父には子供(私のいとこ)もいるのですが疎遠になっており、私の知る限りでは20年ほどは連絡さえしていなかったと思います。叔父の世話は私や近所に住んでいる親族で行っていました。
私はこの遺言に沿って、その不動産を相続したのですが、いとこがどこからか親が亡くなったことを聞きつけて私に遺言は無効だから相続した不動産を返せと言ってきました。叔父の遺言は公正証書でされており、その証人は叔父の友人がなっていたようです。その証人のお1人が目が見えない方だったらしく、目が見えないのに証人はできないのだから遺言も無効だというのです。
もう不動産の登記も引っ越しも済ませているので、今更返せと言われても困るのですが、叔父の遺言は無効なのでしょうか。

司法書士

ご相談の遺言書は有効だと考えます。
民法で公正証書遺言について「遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。」とされているため、目が見えないと「筆記の正確なこと」を確認できないのではないかが争われたことがありますが最高裁判所は問題ないとしています。
なので、今回のご相談でもたとえ証人が目が見えない方であったとしても問題ないと思われます。

(公正証書遺言)
民法 第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 -中略-
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。

公正証書遺言の証人適格について

公正証書で遺言をの残す場合には2人の証人が必要になります。
この証人になれない人について民法は規定を置いていますので、この規定に該当する人は証人にはなれません。
該当しない人は証人になれそうですが、上記の通り証人は「筆記の正確なこと」を確認する必要があるので、確認できない人は証人にはなれないのではないか、目が見えないと確認できないのではないかが裁判で争われた事案がありました。

最高裁判所はまず一般論として次のように判断しました。

民法九六九条一号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないことを定めるが、盲人は、同法九七四条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。のみならず、盲人は、視力に障害があるとしても、通常この一事から直ちに右証人としての職責を果たすことができない者であるとしなければならない根拠を見出し難いことも以下に述べるとおりであるから、公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるということもできないと解するのが相当である。
すなわち、公正証書による遺言について証人の立会を必要とすると定められている所以のものは、右証人をして遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自己の意思に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をさせるほか、公証人が民法九六九条三号に掲げられている方式を履践するため筆記した遺言者の口述を読み聞かせるのを聞いて筆記の正確なことの確認をさせたうえこれを承認させることによつて遺言者の真意を確保し、遺言をめぐる後日の紛争を未然に防止しようとすることにある。
ところで、一般に、視力に障害があるにすぎない盲人が遺言者に人違いがないこと及び遺言者が正常な精神状態のもとで自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることの確認をする能力まで欠いているということのできないことは明らかである。また、公証人による筆記の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてすれば足りるものであつて、これに加えて更に、公証人の筆記したところを目で見て、これと前記耳で聞いたところとを対比することによつてすることは、その必要がないと解するのを相当とするから、聴力には障害のない盲人が公証人による筆記の正確なことの承認をすることができない者にあたるとすることのできないこともまた明らかである。
なお、証人において遺言者の口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ、公証人による筆記の正確なことを独自に承認することが不可能であるような場合は考えられないことではないとしても、このような稀有の場合を想定して一般的に盲人を公正証書遺言に立ち会う証人としての適性を欠く事実上の欠格者であるとする必要はなく、このような場合には、証人において視力に障害があり公証人による筆記の正確なことを現に確認してこれを承認したものではないことを理由に、公正証書による遺言につき履践すべき方式を履践したものとすることができないとすれば足りるものである。
このように、盲人は、視力に障害があるとはいえ、公正証書に立ち会う証人としての法律上はもとより事実上の欠格者であるということはできないのである。

最判昭和55年12月4日 民集34巻7号835頁

このうえで、具体的な事案については次のように述べました。

そうすると、本件公正証書による遺言につき証人として立ち会つたDは、盲人であつたが、証人としての欠格者であるということはできないところ、原審の確定するところによれば、右Dは、公証人が読み聞かせたところに従い公証人による遺言者Eの口述の筆記が正確であることを承認したうえ署名押印したというのであつて、その間右Eの口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ公証人による筆記の正確なことを確認してこれを承認することができなかつたというべき特段の事情が存在していたことは窺われないのであるから、右Dが証人として立ち会つた本件公正証書による遺言に方式違背はなく、右遺言は有効であるといわなければならず、これと同趣旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。

通常は公証役場において遺言者の「口授したところを耳で聞くとともに公証人の筆記したところを目で見て両者を対比するのでなければ公証人による筆記の正確なことを確認してこれを承認することができなかつたというべき特段の事情が存在していたこと」は無いと思われますので、ご相談でのいとこさんが遺言の無効を証明することはほぼ不可能だと考えます。

遺言執行者と受遺者の選定 → 事例紹介

遺言書の署名と押印 → 事例紹介

署名の自書性 → 事例紹介

共同遺言の有効性 → 事例紹介

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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