先日亡くなった父の遺言のことでご相談です。
父は遺言を残していたのですが、その遺言には父が生前住んでいた豊中市内の土地と建物は私に相続させると記されていました。豊中市内の家に私は父と同居して父の世話を行っていましたので、そのまま私が住み続けられるようにしてくれたのだと思います。
その遺言は封筒に入っていたのですが、封筒には押印があったのに、中身の遺言書自体には押印がありませんでした。
その点をとらえて兄が遺言は無効だと言いだしているのですが、この遺言は無効となって私は豊中市内の不動産を相続できないのでしょうか。
実物を拝見しますと、封筒の封じ目に押印がなされおり、封筒の裏にご署名がありました。
少なくとも、このようなものでしたら、遺言書自体に押印が無くても、封筒とセットでお父様ご自身が書かれたものと分かりますので、裁判所も遺言は有効であると認めると思われます。
お兄様にはその旨をお伝えして、納得いただくようにお話してみてはいかかでしょうか。
遺言書自体に押印が無くても封筒の封に押印があった場合の遺言の有効性
民法では遺言には署名をしたうえで押印しなければならないと定められています。
そこで遺言書に押印が無くても、それを入れていた封筒の封じ目に押印があり、その裏に署名がされていたという場合、遺言書自体に押印がないので、遺言は猛攻なのではないかが争われた事案があります。
民法第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
この事案で最高裁判所は、そのような遺言でも有効であると判断しました。
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右認定に係る事実関係の下において、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法九六八条一項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論
最判平成6年6月24日 集民 第172号733頁
旨は、独自の見解に基づき又は原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
判決自体は簡潔に「遺言者が、自筆証書遺言をするにつき書簡の形式を採ったため、遺言書本文の自署名下には押印をしなかったが、遺言書であることを意識して、これを入れた封筒の封じ目に押印したものであるなど原判示の事実関係の下においては、右押印により、自筆証書遺言の押印の要件に欠けるところはない。」ということを示すのみですが、原審では次のような判断がなされていました。
原審は「同条項(民法968条1項)が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまつて遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによつて文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにある(最判平成元年2月16日 民集 第43巻2号45頁)」とした最高裁判所の判例を引用したうえで、この趣旨を損なわないようなものであれば遺言書自体に押印が無くても良いと判断しました。
そして、封筒の封じ目に押印がなされることも珍しいことではなく、遺言書の完結を十分に示しているとして、自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の前期趣旨を損なうものではないと解するのが相当であると結論付けました。
今回のご相談でもこの判断を前提とすれば、遺言の有効性を認められると思われます。
不明確な遺言の解釈 → 事例紹介
公正証書遺言の証人適格 → 事例紹介
遺言書の自書性 → 事例紹介
共同遺言の有効性 → 事例紹介
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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