私は現在、妻とともに箕面市内に住んでいます。
私は性同一性障害特例法によって戸籍上、男性となり、今の妻と結婚しました。
今回のご相談は、子供のことについてです。妻は精子提供を受けて子供をもうけたいと言っているのですが、そのようにして生まれた子供は私の嫡出子となるのでしょうか。
将来的な相続のことなども考えると、子供は嫡出子とできたほうが良いように思うのですが。
箕面市内に不動産も持たれているようなので、相続のことをご心配なのだと思いますが、単に相続のことだけでいうのであれば、嫡出子であろうと非嫡出子であろうとあまり変わりません。
ただ、夫婦の間で生まれた子供が嫡出子ではないということがしっくりこないということもわかります。
結論から言いますと、一時期、戸籍実務では嫡出子出生届を受理しないという取り扱いをしていたようですが、現在では嫡出子として認められます。
性同一性障害特例法によって性別を変更した後に生まれた子供の嫡出推定
性同一性障害特例法によって性別を変更した後に結婚して、精子提供によって生まれた子供に嫡出推定がおよび、嫡出子と認められるのか、それとも生物学的に子供をもうけることができないのであるから嫡出子とはならないのかが争われた事案があります。
事案の概要は次の通りです。
1 本件は,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた抗告人X1及びその後抗告人X1と婚姻をした女性である抗告人X2が,抗告人X2が婚姻中に懐胎して出産した男児であるAの,父の欄を空欄とする等の戸籍の記載につき,戸籍法113条の規定に基づく戸籍の訂正の許可を求める事案である。
2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。
(1) 抗告人X1は,生物学的には女性であることが明らかであったが,特例法2条に規定する性同一性障害者であったところ,平成16年に性別適合手術を受け,平成20年,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者である。抗告人X1の戸籍には戸籍法13条8号及び戸籍法施行規則35条16号により同審判発効日の記載がされた。抗告人X1は,平成20年4月▲日,女性である抗告人X2と婚姻をした。
(2) 抗告人X2は,夫である抗告人X1の同意の下,抗告人X1以外の男性の精子提供を受けて人工授精によって懐胎し,平成21年11月▲日にAを出産した。
(3) 抗告人X1は,平成24年1月▲日,Aを抗告人ら夫婦の嫡出子とする出生届を東京都新宿区長に提出した。これに対し,戸籍事務管掌者である同区長は,Aが民法772条による嫡出の推定を受けないことを前提に,出生届の父母との続柄欄等に不備があるとして追完をするよう催告したが,抗告人X1がこれに従わなかったことから,平成24年2月▲日,東京法務局長の許可を得て,同年3月▲日,Aの「父」の欄を空欄とし,抗告人X2の長男とし,「許可日 平成24年2月▲日」,「入籍日 平成24年3月▲日」とする旨の戸籍の記載(以下「本件戸籍記載」という。)をした(戸籍法45条,44条3項,24条2項)。
(4) 抗告人らは,Aは民法772条による嫡出の推定を受けるから,本件戸籍記載は法律上許されないものであると主張して,筆頭者抗告人X1の戸籍中,Aの「父」の欄に「X1」と記載し,同出生の欄の「許可日 平成24年2月▲日」及び「入籍日 平成24年3月▲日」の記載を消除し,「届出日 平成24年1月▲日」,「届出人 父」と記載する旨の戸籍の訂正の許可を求めている。
この様な事案について最高裁判所は生まれてきた子供は夫婦の嫡出子であることを認めました。
(1) 特例法4条1項は,性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,民法その他の法令の規定の適用については,法律に別段の定めがある場合を除き,その性別につき他の性別に変わったものとみなす旨を規定している。したがって,特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。
最判平成25年12月10日 民集 第67巻9号1847頁
もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。
そうすると,妻が夫との婚姻中に懐胎した子につき嫡出子であるとの出生届がされた場合においては,戸籍事務管掌者が,戸籍の記載から夫が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であって当該夫と当該子との間の血縁関係が存在しないことが明らかであるとして,当該子が民法772条による嫡
出の推定を受けないと判断し,このことを理由に父の欄を空欄とする等の戸籍の記載をすることは法律上許されないというべきである。
(2) これを本件についてみると,Aは,妻である抗告人X2が婚姻中に懐胎した子であるから,夫である抗告人X1が特例法3条1項の規定に基づき性別の取扱いの変更の審判を受けた者であるとしても,民法772条の規定により,抗告人X1の子と推定され,また,Aが実質的に同条の推定を受けない事情,すなわち夫婦
の実態が失われていたことが明らかなことその他の事情もうかがわれない。
したがって,Aについて民法772条の規定に従い嫡出子としての戸籍の届出をすることは認められるべきであり,Aが同条による嫡出の推定を受けないことを理由とする本件戸籍記載は法律上許されないものであって戸籍の訂正を許可すべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,前記説示によれば,抗告人らの本件戸籍記載の訂正の許可申立ては理由があるから,これを却下した原々審判を取り消し,同申立てを認容することとする。
このように最高裁判所は性別変更後に結婚した夫婦間の子供も嫡出子と認める判断をしていますので、ご相談においても嫡出子として認められると考えます。
認知の無効 → 事例紹介
嫡出推定の及ぶ範囲 → 事例紹介
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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