わたしは知人にお金を貸していたのですが、その知人が亡くなりました。
知人は池田市内に不動産を所有していたので、その不動産を競売にかけて貸したお金を回収しようと思っていたのですが、その前にその知人が亡くなってしまい、その子供が相続をしたようです。
しかし、知人は亡くなる前に子供に池田市内の不動産を死因贈与していたらしく、その仮登記があり、その子供たちは相続については限定承認をしているので貸したお金を返す義理はないというのです。
自分たちは不動産を受け取りながら、相続については限定承認をしているから借金は返さないなんてことが許されるのでしょうか。
確かに、死因贈与による仮登記があるのであれば、不動産について民事執行をかけて競売に持ち込むことができないとも考えられます。
しかし、死因贈与を受けた者が亡くなられた方の相続人である場合には、限定承認をして死因贈与によって得た不動産の対抗関係について優先するという主張は信義則によってできないとされています。
なので、ご相談についてもお金を貸していた知人の子供が死因贈与にって不動産が自分たちに物になっていると主張することはできず、民事執行法により競売に欠けることは可能です。
死因贈与によって不動産を得た相続人が限定承認により相続債権者に対して不動産取得を対抗することの可否
死因贈与によって不動産を得た相続人が限定承認により相続債権者に対して不動産取得を対抗することができるのかが争われた事案があります。
1.被相続人にお金を貸した。
2.死因贈与が行われて、その仮登記がなされた。
3.被相続人が亡くなった。
4.死因贈与による仮登記が本登記された。
5.被相続人が貸したお金を返還を求めた。
6.相続人が限定承認をした。
という時系列で、貸したお金を回収するために被相続人の所有していた不動産に民事執行をかけることができるかが争われたものです。
一見すると死因贈与による登記がなされているので、もはや問題の不動産は相続人のものとなっており、民事執行をかけることができないのではとも思われますが、最高裁判所は民事執行を認めました。
上告代理人田中紘三、同田中みどりの上告理由について不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人である場合において、限定承認がされたときは、死因贈与に基づく限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記よりも先にされたとしても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができないというべきである。
最判平成10年2月13日 民集 第52巻1号38頁
ただし、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるべきものであることを考慮すると、限定承認者が、相続債権者の存在を前提として自ら限定承認をしながら、贈与者の相続人としての登記義務者の地位と受贈者としての登記権利者の地位を兼ねる者として自らに対する所有権移転登記手続をすることは信義則上相当でないものというべきであり、また、もし仮に、限定承認者が相続債権者による差押登記に先立って所有権移転登記手続をすることにより死因贈与の目的不動産の所有権取得を相続債権者に対抗することができるものとすれば、限定承認者は、右不動産以外の被相続人の財産の限度においてのみその債務を弁済すれば免責されるばかりか、右不動産の所有権をも取得するという利益を受け、他方、相続債権者はこれに伴い弁済を受けることのできる額が減少するという不利益を受けることとなり、限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く結果となるからである。そして、この理は、右所有権移転登記が仮登記に基づく本登記であるかどうかにかかわらず、当てはまるものというべきである。
このように最高裁判所は「限定承認者と相続債権者との間の公平を欠く」ことを理由に、「信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗することができない」と判断しました。
そして具体的な事案については次のように示しました。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、
(一)本件土地の所有者であったDは、昭和六二年一二月二一日、本件土地を上告人らに死因贈与し(上告人らの持分各二分の一)、上告人らは、同月二三日、本件土地につき右死因贈与を登記原因とする始期付所有権移転仮登記を経由した、
(二)Dは平成五年五月九日死亡し、その相続人は上告人ら及びEであったが、Eについては同年七月九日に相続放棄の申述が受理され、上告人らは同年八月三日に限定承認の申述受理の申立てをし、右申述は同月二六日に受理された、
(三)上告人らは、平成五年八月四日、本件土地につき右(一)の仮登記に基づく所有権移転登記を経由した、
(四)被上告人は、Dに対して有する債権についての執行証書の正本にDの相続財産の限度内においてその一般承継人である上告人らに対し強制執行することができる旨の承継執行文の付与を受け、これを債務名義として本件土地につき強制競売の申立てをし、東京地方裁判所は平成六年一一月二九日強制競売開始決定をし、本件土地に差押登記がされたというのであるから、限定承認者である上告人らは相続債権者である被上告人に対して本件土地の所有権取得を対抗することができないというべきである。
そうすると、本件土地が限定承認における相続債権者に対する責任財産には当たらないことを理由とする上告人らの本件第三者異議の訴えは棄却すべきものであり、これと同旨の原判決の結論は正当である。論旨は、原判決の結論に影響のない事項についての違法をいうものであって、採用することができない。
このような判断を前提とすれば、ご相談においてもお金を貸した知人の子供たちが限定承認と死因贈与による不動産の取得を主張することはできないと思われます。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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