私の叔父の相続のことで、ご相談です。
1年ほど前に私の叔父が亡くなりました。叔父は遺言を残しており、私に叔父の自宅としていた豊中市内の土地と建物を遺贈することとされていました。
叔父には息子(私のいとこ)がいるのですが、いとこは若いころから叔父と折り合いが悪く、家を出て行ったきりでほぼ音信不通状態でした。
叔父は退職してから足を悪くして買い物など生活に不便なこともありましたので近所に住んでいた私が20年ほどお世話をしていました。叔父の遺言にはそのことへの感謝と、そのお礼として不動産を遺贈する旨が書かれていたのです。私はありがたく受け取ることにしました。
ただ、私にも自宅がありますので、しばらくそのままにしておこうと思っていたのですが、私の娘が引っ越しを考えているというので、叔父から譲り受けた家をリフォームするか建て直したらいいのではないかと思いつきました。
そこで、この際に登記もきちんとしておこうと思ったのですが、既にいとこ名義の相続登記がされており、さらに私の知らない人に転売の登記がされているようなのです。
せっかく叔父が私のために贈ってくれたのに、どうにかならないでしょうか。
ご相談をお聞きする限りは、既に第三者名義の登記がされているということですので、今から取れる手段はほぼ無く、不動産を取り返すことはあきらめるしかないと思われます。
いとこさんに対して損害賠償を求めることは、もちろんできますが、お話を聞いている限り、かなり奔放な方の様ですので、実際に賠償金を支払うことができるのかもわからず、難しい対応になるのではないでしょうか。
遺贈により取得した不動産と登記
不動産に関する権利関係は登記をしなければ、第三者に対して自身が権利者であることを主張することができません。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
ここでの「不動産に関する物権の得喪及び変更」に遺贈(遺言による贈与)も含まれるのかについて、最高裁判所は次のように含まれると判断しています。
原審の確定したところによれば、亡Dは昭和三三年六月一一日付遺言により本件不動産をE外五名に遺贈し、右遺贈は同月一七日Dの死亡により効力を生じたが、遺贈を原因とする所有権移転登記はなされなかつたこと、被上告人は、同年七月一〇日Dの相続人の一人であるFに対する強制執行として、右相続人に代位し同人のために本件不動産につき相続による持分(四分の一)取得の登記をなし、ついでFの取得した右持分に対する強制競売申立が登記簿に記入されたというのである。
最判昭和39年3月6日 民集 第18巻3号437頁
ところで、不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三一年(オ)一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言によつて受遺
者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。
そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。
しかるときは、本件不動産につき遺贈による移転登記のなされない間に、亡Dと法律上同一の地位にあるFに対する強制執行として、Fの前記持分に対する強制競売申立が登記簿に記入された前記認定の事実関係のもとにおいては、競売中立をした被上告人は、前記Fの本件不動産持分に対する差押債権者として民法一七七条にいう第三者に該当し、受遺者は登記がなければ自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないものと解
すべきであり、原判決認定のように競売申立記入登記後に遺言執行者が選任せられても、それは被上告人の前記第三者たる地位に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。
従つて、原審が、前記認定の事実に基づき、被上告人が民法一七七条の第三者に該当し、受遺者は自己の所有権取得をもつて被上告人に対抗できないとした判断は正当であり、所論は、独自の見解に立ち原判決を非難するに帰するものであつて、採用できない。
今回のご相談でも、遺贈による不動産の所有権を譲り受けたことは登記をしなければ第三者に対して主張できません。
そして既に第三者の登記がされてしまっている以上、残念ながら登記名義をご相談者様に戻すことは困難であると考えます。
遺産分割と登記 → 事例紹介
相続放棄と登記 → 事例紹介
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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