私は結婚後、ある男性と出会い、夫に隠れて付き合うようになりました。
その後、その男性の子供を身ごもったのですが、夫とも夫婦関係はありましたので、夫の子として産み、育てていました。その間も、その男性とのお付き合いは続けていたのですが、子供を産んでから2年ほどで夫と離婚して、その男性と結婚したいと思うようになり、家を出ました。現在は箕面市にあるその男性の家で子供と3人で暮らしています。
子供はDNA検査の結果、夫の子ではなく、その男性の子供であることが分かっているので、夫には子供との親子関係を否定してほしいと考えています。
現状ではお子様には前夫の嫡出推定が及んでいます。この嫡出推定が及んでいる場合に嫡出性を否定しようとする場合は嫡出否認の訴えを起こすことが必要になりますが、その提訴期間は子供が生まれてから1年に限定されています。また訴えは夫しか起こすことができません。
この訴えによらずに親子関係が存在しないことの確認を求めることができるのかが問題とされいましたが、最高裁判所は嫡出推定が及ぶ子については嫡出否認の訴えしか認めないという立場をとっていますので、この方法も使うことができません。
しかし現在、民法が改正されて嫡出否認の訴えの提訴期間が子供が生まれたときから3年に拡大され、また妻からも提訴できるという制度になっています。
この改正された法律は原則として、令和6年(2024年)4月1日以後に生まれる子に適用されますが、この日の前に生まれた子供やその母も、この日から1年間に限り、嫡出否認の訴えを提起することが可能とされています。
なので、ご相談においてもこの日以降に嫡出否認の訴えを提起することをお勧めします。
嫡出推定と嫡出性を否定するための方法
民法は嫡出推定が及ぶ子について、その親子関係を否定するためには嫡出否認の訴えを用意しています。
嫡出推定の及ぶ子については、この嫡出否認の訴えでしか親子関係を否定できないのかが争われた事件で最高裁判所は次のように判断しています。
問題となった事案は次の通りです。
(1) 上告人と甲は,平成11年▲月▲日,婚姻の届出をした。
最判平成26年7月17日 民集 第68巻6号547頁
(2) 甲は,平成20年頃から乙と交際を始め,性的関係を持つようになった。しかし,上告人と甲は同居を続け,夫婦の実態が失われることはなかった。
(3) 甲は,平成21年▲月,妊娠したことを知ったが,その子が乙との間の子であると思っていたことから,妊娠したことを上告人に言わなかった。甲は,同年▲月▲日に上告人に黙って病院に行き,同月▲日に被上告人を出産した。
(4) 上告人は,平成21年▲月▲日,入院中の甲を探し出した。上告人が甲に対して被上告人が誰の子であるかを尋ねたところ,甲は,「2,3
回しか会ったことのない男の人」などと答えた。上告人は,同月▲日,被上告人を上告人と甲の長女とする出生届を提出し,その後,被上告人を自らの子として監護養育した。
(5) 上告人と甲は,平成22年▲月▲日,被上告人の親権者を甲と定めて協議離婚をした。甲と被上告人は,現在,乙と共に生活している。
(6) 甲は,平成23年6月,被上告人の法定代理人として,本件訴えを提起した。
(7) 被上告人側で私的に行ったDNA検査の結果によれば,乙が被上告人の生物学上の父である確率は99.999998%であるとされている。
このような事案に対して最高裁判所は次のように判断しました。
民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。
そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該
父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。
このように解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。
もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁,前掲最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決参照)。
しかしながら,本件においては,甲が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。
5 以上によれば,本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず,これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,第1審判決を取り消し,本件訴えを却下すべきである。
このようにたとえDNA鑑定によって父親ではないことが分かっていたとしても、嫡出推定が及ぶ子の親子関係を否定するためには嫡出否認の訴えが強制されることになります。
この結論は事情にっては子に不合理と思われる状況を作り出すことにもなることから、令和4年に民法が一部改正され、嫡出否認の訴えを利用しやすくなる制度に変わっています。
ご相談においても、この改正後の制度を利用することが考えられます。
法務省ウェブサイトより
(画像をクリックすると法務省のウェブサイトのPDFが表示されます。)
性別変更と嫡出推定 → 事例紹介
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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