池田市 D.K.さん

私は池田市内の会社である男性と出会い、お付き合いを始めました。
私は結婚してずっと一緒に暮らすことはあまり望んでおらず、彼もそのことを承知の上で付き合っていました。そのような始まりなので、もちろん同居はせず、家計も別です。
ただ、彼の方はどうしても子供が欲しかったようなので、私は一切養育にはかかわらないという約束で、2人子供を産みました。その子供たちは彼と彼の両親が育てています。
私としてはこのような関係を続けていたかったのですが、彼が別の女性と結婚するので分かれてほしいと言い出しました。
私としては彼の望む通り、子供まで生んだのに一方的に関係を断たれることに納得がいきません。彼に対して慰謝料の請求はできないものでしょうか。

司法書士

法律上の婚姻関係に準じるような関係を継続しようという場合には、たとえ婚姻届けを提出していなくとも、一方的な関係破棄を理由に慰謝料を請求することはできますが、現状、お聞きした限りでは、そのような関係すら望んではいないようですので、慰謝料請求は難しいのではないかと思われます。

パートナーシップ関係の解消と不法行為の成立

婚姻関係の継続を前提とせずに、互いに独立性を尊重しながら関係を続けるパートナーシップ関係を一方的に解消された場合に不法行為による慰謝料請求が認められるかについてはいろいろな考え方があります。
一口にパートナーシップ関係と言っても内容は千差万別であり、どのような関係であるのかによっても不法行為が成立するか否かが分かれることになるからです。
そのような中、1つの事例として最高裁判所が不法行為の成立を否定した事案があります。

事案の概要は次の通りです。

 (1) 上告人と被上告人とは,被上告人が大学4年生であった昭和60年11月に結婚相談所を通じて知り合い,その1か月後には婚約し,翌年3月に入籍の予定であったが,同月ころ,婚約を解消した。上告人と被上告人は,上記婚約を解消するに際し,結婚する旨の報告をしていた関係者に対し,連名で婚約を解消する旨の書状を発送したが,その書状には,「お互いにとって大切な人であることにはかわりはないため,スープの冷めないぐらいの近距離に住み,特別の他人として,親交を深めることに決めました」との記載がある。
 (2) 上告人は,昭和61年4月15日ころ,東京都a区内の被上告人の家の近くに引っ越して来て,双方が互いの家を行き来するようになった。そして,平成2年4月に上告人が東京都b市の自宅に転居してからも,上告人が被上告人宅に泊まって被上告人宅から出勤するということもあった。もっとも,上告人と被上告人とは,その住居は飽くまでも別々であって同居をしたことはなく,合鍵を持ち合うことも,上告人が被上告人宅に泊まったときに一緒に食事をすることもなく,また,生計も全く別で,それぞれが自己の生計の維持管理をしており,共有する財産もなかった。
 (3) 被上告人は出産には消極的であったが,上告人が子供を持つことを強く望んだため,両者の間で,上告人が出産に関する費用及び子供の養育について全面的に責任を持つという約束をした上で,被上告人は,平成元年6月6日,上告人との間の長女を出産した。上告人と被上告人は,長女の出産に際しては,子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等から,その出生の日に婚姻の届出をし,同年9月26日に協議離婚の届出をした。また,被上告人は,上記の約束に基づき,妊娠及び出産の際の通院費,医療関係費及び雑費等を上告人に請求して受領したほか,上告人の親から出産費用等として約650万円を受け取った。
 上記の約束に基づき,長女は,出生後,静岡県c市内に住んでいた上告人の母に引き取られ,その下で養育され,被上告人がその養育にかかわることはなかった。その後,長女は,上告人の母と共に東京都b市内に転居し,上告人の母と2人で暮らしている。
 (4) 被上告人は,平成5年2月10日,上告人との間の長男を出産した。長男の出産は,一卵性双生児の一方が出産後間もなく死亡するという異常出産で,被上告人自身も一時的に危篤状態に陥り,2か月間入院した。その出産に先立ち,被上告人が,生まれてくる子供の養育の負担により自分の仕事が犠牲にならないようにするため,子供の養育の放棄を要望したことから,上告人と被上告人とは,平成4年11月17日,被上告人及びその家族が出産後の子供の養育についての労力的,経済的な負担等の一切の負担を免れることを上告人は保障すること,被上告人は上告人が決定する子供の養育内容について一切異議を申し立てないこと等の取決めを行い,その取決めを記載した書面に公証人役場において公証人の確定日付を受けた。
また,被上告人は,長男の出産の際にも,上告人から相当額の出産費用等を受け取っており,両者は,長女の場合と同様の配慮から,長男の出生の届出をした日(平成5年2月19日)に婚姻の届出をし,同月23日に協議離婚の届出をした。
 長男は,上記取決めに基づき,上告人に引き取られたが,上告人の判断で施設に預けられた。長男は,その施設において養育され,被上告人がその養育にかかわることは全くなかった。その後,後記のとおり,上告人が甲と婚姻したことにより,長男は,平成14年3月,上告人らの下に引き取られた。
 (5) 長男の出産の前後において,上告人と被上告人との関係が悪化し,上告人の被上告人に対する暴力行為や,上告人による被上告人宅の玄関ドアの損壊などがあり,出産後,両者は半年間ほど絶交状態にあったが,その後,関係が修復し,上告人が被上告人の原稿の校正を行ったり,被上告人の研究分野に関する資料を送付したり,一緒に旅行をするなどしていた。また,被上告人は,平成8年ころからd大学教育学部の助教授として勤務するようになったが,上告人は,被上告人がd市内にアパートを借りるに当たって連帯保証人となったり,被上告人が同大学で「ジェンダー論」の講義をするに際し,被上告人の求めに応じ,講義資料として自己の戸籍謄本を提供したり,学生にメッセージを寄せるなどの協力をした。
 (6) 甲は,大学の通信教育で学びながら,上告人の勤務する百貨店でアルバイトをしていたが,平成12年ころ,上告人と知り合い,思いを寄せるようになった。
甲は,上記アルバイトを辞め,別の会社に勤めた後も,上告人との交際を続けた。甲は,平成13年4月30日,上告人宅を訪れ,上告人と話合いをし,上告人と被上告人との間に2人の子供がいることを理解した上で,上告人との結婚を決意した。
 (7) 上告人と被上告人とは,同年5月の連休に,一緒に京都旅行に行くことにしていたが,上告人がこれをキャンセルし,被上告人は1人で旅行に出かけた。同月2日,上告人は,京都旅行から東京に帰ってきた被上告人に対し,東京駅において,今後は今までのような関係を持つことはできない旨等を記載した手紙を手渡すとともに,他の女性と結婚する旨を告げ,被上告人との関係を解消した。
 (8) 上告人と甲は,同年7月18日,婚姻の届出をした。

最判平成16年11月18日 集民 第215号639頁

このような事案において、最高裁判所は次のように判断しました。

 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,上告人が突然かつ一方的に両者の間の「パートナーシップ関係」の解消を通告し,甲と婚姻したことが不法行為に当たると主張して,これによって被上告人が被った精神的損害の賠償を求める事案である。
 3 原審は,前記の事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の請求を,慰謝料100万円の支払を求める限度で認容し,その余を棄却すべきものとした。
 (1) 上告人と被上告人との関係は,婚姻届を提出せず,法律婚として法の保護を受けることを拒否し,互いの同居義務,扶助義務も否定するという,通常の婚姻ないし内縁関係の実質を欠くものであったことが認められる。そのような関係は,その維持を専ら両者の自由な意思のみにゆだねるものであり,法的な拘束性を伴うものではないと解されるから,その解消に当たっては,互いに損害賠償責任を生ぜしめるものではないと解する余地もあり得る。
 (2) しかしながら,上告人と被上告人とは,両者が知り合った昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたり,上記のような関係を継続してきたものであり,その間,2人の子供をもうけ,時に互いの仕事について協力し,一緒に旅行をすることもあること等,互いに生活上の「特別の他人」としての立場を保持してきたこともまた認められる。
 (3) そうすると,上記(1)にかかわらず,少なくとも,上記(2)のような事情を含む本件の場合において,上告人が,被上告人との格別の話合いもなく,平成13年5月2日,突然,上記の関係を一方的に破棄し,それを破たんさせるに至ったことについては,被上告人における関係継続についての期待を一方的に裏切るものであって,相当とは認め難い。
 したがって,上告人は,被上告人に対し,不法行為責任を免れ難い。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記の事実関係によれば,①上告人と被上告人との関係は,昭和60年から平成13年に至るまでの約16年間にわたるものであり,両者の間には2人の子供が生まれ,時には,仕事の面で相互に協力をしたり,一緒に旅行をすることもあったこと,しかしながら,②上記の期間中,両者は,その住居を異にしており,共同生活をしたことは全くなく,それぞれが自己の生計を維持管理しており,共有する財産もなかったこと,③被上告人は上告人との間に2人の子供を出産したが,子供の養育の負担を免れたいとの被上告人の要望に基づく両者の事前の取決め等に従い,被上告人は2人の子供の養育には一切かかわりを持っていないこと,そして,被上告人は,出産の際には,上告人側から出産費用等として相当額の金員をその都度受領していること,④上告人と被上告人は,出産の際に婚姻の届出をし,出産後に協議離婚の届出をすることを繰り返しているが,これは,生まれてくる子供が法律上不利益を受けることがないようにとの配慮等によるものであって,昭和61年3月に両者が婚約を解消して以降,両者の間に民法所定の婚姻をする旨の意思の合致が存したことはなく,かえって,両者は意図的に婚姻を回避していること,⑤上告人と被上告人との間において,上記の関係に関し,その一方が相手方に無断で相手方以外の者と婚姻をするなどして上記の関係から離脱してはならない旨の関係存続に関する合意がされた形跡はないことが明らかである。
 【要旨】以上の諸点に照らすと,上告人と被上告人との間の上記関係については,婚姻及びこれに準ずるものと同様の存続の保障を認める余地がないことはもとより,上記関係の存続に関し,上告人が被上告人に対して何らかの法的な義務を負うものと解することはできず,被上告人が上記関係の存続に関する法的な権利ないし利益を有するものとはいえない。
そうすると,上告人が長年続いた被上告人との上記関係を前記のような方法で突然かつ一方的に解消し,他の女性と婚姻するに至ったことについて被上告人が不満を抱くことは理解し得ないではないが,上告人の上記行為をもって,慰謝料請求権の発生を肯認し得る不法行為と評価することはできないものというべきである。
 5 以上によれば,上記と異なる見解の下に,上告人の被上告人に対する不法行為責任を肯定し,被上告人の請求の一部を認容した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は相当であるから,上記部分に係る被上告人の控訴を棄却すべきである。

以上のように控訴審では慰謝料の請求が認められたのに対して、上告審では認められませんでした。
これは不法行為が成立して慰謝料が認められるにためにどのような利益・関係を重視すべきか問う点で考えが分かれたためを言われています。
つまり控訴審では「パートナーシップ関係」が「特別の他人」であることを重視して、その特別の他人との関係を一方的に立たれたことが不法行為を構成すると判断されたのに対して。上告審では保護される「パートナーシップ関係」を「法律上の婚姻間に準じる関係」であることが必要と考え、事案の状況においてはこのような関係はないので不法行為は成立しないと判断されたと考えられています。

最高裁判所は上記で引用したように①から⑤のを考慮して婚姻関係に準じる関係があったか否かを判断していますので、ご相談においてもこれらを参考にしながら不法行為が成立するか否かを判断することになります。

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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