私は現在、豊中市内で子供と2人で暮らしているのですが、その子供の相続についてのご相談です。
私は大学卒業後に東京で就職して働いていました。そこで出会った男性とお付き合いをはじめて子供もできたのですが、その男性が結婚していることを知ったのは妊娠が分かってからでした。ただ、どうしても子供が欲しかったので悩みましたが、生むことにしたのです。
彼も認知するつもりだと言っていたのですが、突然の事故で亡くなりました。
彼が亡くなった後でも認知を請求できるという手続きがあるのを知り、その手続きによって私の子供も彼の子であると認められました、
そこで彼の親族に遺産の分割を求めたのですが、死後認知の手続きに時間が掛かってしまい、彼の遺産分割は既に終了しているというのです。
そこで、子供の相続分相当額の支払いを求めたのですが、彼には財産もある一方で、負債もあったようで、負債を差し引いた金額なら支払うと言われました。
私の子供が請求できる金額はこの負債を差し引いた金額になるのでしょうか。
遺産分割後に認知された相続人が相続分相当額の支払いを相続人に対して求めていく場合は、負債を差し引いた金額を基準にするのではなく、プラスの相続財産を基準にすると考えられていますので、今回のご相談では負債を差し引いた金額が基準になるわけではありません。
死後認知を受けた相続人の民法910条による相続分請求権
死後認知により相続人となったにもかかわらず、相続人となった時点で既に遺産分割が行われてい場合に民法910条によって法定相続分に相当する金額の支払いを他の相続人に求めることができます。
(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
第九百十条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
この請求権によって認められる遺産相当額の範囲について、預貯金や不動産などのプラスの遺産(積極財産)を基準にするのか、負債などのマイナスの遺産(消極財産)を積極財産から差し引いた残りを基準とするのかが、この条文からは明らかではありません。
そこで、どちらなのかを判断したのが次の最高裁判所の判例です。
1 亡Aの妻であるB及びAの子である上告人がAの遺産について分割の協議を成立させた後,被上告人がAの子であることを認知する旨の判決が確定した。本件は,被上告人が,上告人に対し,民法910条に基づく価額の支払を求める事案である。
最判令和元年8月27日 民集 第73巻3号374頁
2 所論は,上記協議に際して相続債務の負担に関する合意がされ,相続債務の一部がBによって弁済されている本件においては,民法910条に基づき被上告人に対して支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,Aの遺産のうち積極財産の価額から消極財産の価額を控除したものとすべきであるのに,これを上記
積極財産の価額とした原審の判断には,同条の解釈適用の誤りがある旨をいうものである。
3 民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである(最高裁平成26年(受)第1312号,第1313号同28年2月26日第二小法廷判決・民集70巻2号195頁)。そうすると,同条に基づき支払われるべき価額は,当該分割等の対象とされた遺産の価額を基礎として算定するのが,当事者間の衡平の観点から相当である。
そして,遺産の分割は,遺産のうち積極財産のみを対象とするものであって,消極財産である相続債務は,認知された者を含む各共同相続人に当然に承継され,遺産の分割の対象とならないものである。
以上によれば,相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額であると解するのが相当である。
このことは,相続債務が他の共同相続人によって弁済された場合や,他の共同相続人間において相続債務の負担に関する合意がされた場合であっても,異なるものではない。
このように「民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額である」とされていますので、ご相談においても、負債を差し引いた金額ではなく、積極財産の金額を基準に請求することができます。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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