箕面市 R.E.さん

私の叔母のことでのご相談です。
私の叔母は最近、私と同じ箕面市内に引っ越してきたのですが、先日までは生まれ育った九州の方で暮らしていました。
叔母の実家は農業を行っていたようなのですが、叔母の叔父の妻が亡くなった後、後妻のような形でその叔父さんに嫁いで子供を育てていたようです。
相談は亡くなった夫の厚生年金を叔母が受給できるのかについてです。
先ほどお話した通り、叔母は夫であると叔父と完全に夫婦関係にあったのですが、実際は近親婚ですので、このような場合にも遺族年金は受給できるのでしょうか。
叔母の話を聞く限りでは、叔母が嫁いだ当時、家を存続させるために地元ではよくあることだったというのですが。

司法書士

叔母さまが結婚された際のお話をもう少し詳しく聞く必要がありますが、似たような案件で最高裁判所が厚生年金の遺族年金の受給を認めた事例がありますので、叔母さまにも受給権が認められる可能性は十分にあります。

内縁関係が近親婚にあたる場合の年金受給権

内縁関係が近親婚にあたる場合に厚生年金の遺族年金の受給が認められるのかについて判断した最高裁判所の判例があります。

事案は次のようなものです。

(1) A(昭和▲年▲▲月▲▲日生)は,a県b郡のc町(現在のd市)において,父B(上告人にとっては祖父),母,弟及び妹と同居していた。Aは,昭和▲▲年▲▲月▲▲日,Cと婚姻し,両者の間に,同年▲▲月▲▲日,長女Dが生まれたが,Cは,Dの出産前後から統合失調症に罹患し,同▲▲年末には,Dを残して実家に帰ってしまった。Aは,Cとの婚姻関係の継続は困難であると考え,離婚を決意し,その協議を重ねたが,Cの精神状態が原因で協議自体が困難であった上,Cの両親が,Cとの離婚後にAがCの妹と結婚することを強く望み,AはCを気遣ってこれに応じなかったため,協議は4年間にわたり続いた。
(2) Aは,当時,Eに勤務しており,Cが実家に戻った後は,勤務の都合上,Dの世話はAの父母が行っていた。しかし,Aの父母らは,農業を営み年中多忙であったことから,Dに行き届いた世話をできる状況にはなかった。そのため,Dは,離乳食なども余り食べることができず,栄養失調気味であり,その衣類の洗濯も十分に行われていなかった。
(3) Aの兄の長女である上告人(昭和▲▲年▲月▲▲日生)は,春休み,夏休みなどの長期の休みには,祖父母の手伝いをするためAの住む父の実家を訪れ,その際にDのおしめを替えて洗濯するなど,Dの面倒を見た。Dも,親族の中で最も上告人になついていた。Bは,Dが上告人に一番なついていること,AがBの田畑
を継ぐ可能性が高く,親族関係にある者をAの妻としたいと考えていたこと,親戚の中では上告人の年齢がAに一番近いこと,Aには既に子がおり,夜勤も多い上,その妻になれば同居している老父母の世話や農業の手伝いもしなければならないという事情があり,結婚相手を見つけることが困難であったこと等から,Aの姪に当たる上告人とAとの結婚を提案した。
(4) 上告人は,BからAとの縁談を聞き,余りにも身近な関係にあったため,当初は驚いたものの,Dがやせ細り,その衣類も汚れたままになっていたこと等に同情し,Dのために結婚を決意し,昭和▲▲年▲▲月末ころから,Aと夫婦としての共同生活を始めた。上告人とAは,共同生活を始めるに当たり,2泊3日で新婚
旅行に出かけ,旅行から戻った後,親戚に集まってもらい,結婚を祝う会を開いてもらったが,その媒酌人は,AとCの結婚の際の媒酌人でもあったAの親族が務めた。
(5) AとCとの協議離婚は,昭和▲▲年▲月▲日に成立した。Aは,税金の控除や出産費用の支給等を受けるため,上告人とAが結婚したことについて,同月▲▲日付けで,証人2人の署名入りの証明願をc町長あてに提出し,同証明願に「右願出の通り相違ないことを証明する」との文言及びc町長の記名押印を得た。同証
明願にはAの勤務先の上司である駅長の記名押印も認められる。上告人は,Aを世帯主とする健康保険証に氏名を記載され,源泉徴収票にも配偶者控除の対象として記載されていた。また,上告人の出産に際し,E共済組合から出産費用が支給された。
(6) 上告人とAは,Aが平成▲▲年に死亡するまで,約42年間にわたり夫婦としての生活を送り,両者の間には,昭和▲▲年にFが,同▲▲年にはGが出生し,Aは両名の認知をした。上告人,A,D,F及びGは,Aの収入から生活費を支出し,上告人が家事を担当し,5人で円満な家族生活を送った。上告人は,Aの
葬式の際も,Aの妻として挨拶を行う等,共同生活を始めた当初から終始,事実上の妻としての役割を果たしてきた。Aは,上告人に対し,年金に関する手続の仕方を記した資料の所在を教えた上,自分が先に死亡した場合には,これをよく見て手続をするようにと常に言い聞かせていた。
(7) 上告人は,平成13年10月19日付けで,遺族厚生年金の裁定を請求したところ,被上告人から,同月31日付けで,「遺族の範囲に該当しないため。(近親婚にあたり,内縁の妻として認められないため。)」との理由により本件不支給処分を受けた。
(8) なお,上告人の周囲には,代々農業で生計を立てている者が多く,そのような地域的な特性から,親戚同士で結婚する例も多くあった。上告人の近い親戚の中には,いとこ同士で結婚した夫婦が2組あったほか,上告人の知っている範囲でも,おじと姪で事実上の夫婦として生活する者がAの勤務先で2組,親戚に1組あ
った。

最判平成19年3月8日 民集 第61巻2号518頁

このような事案について下された判断が次のものです。

(1) 法は,遺族厚生年金の支給を受けることができる遺族の範囲について,被保険者又は被保険者であった者(以下,併せて「被保険者等」という。)の配偶者等であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していたものとし(59条1項本文),上記配偶者について,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むものと規定している(3条2項)。法が,このように,遺族厚生年金の支給を受けることができる地位を内縁の配偶者にも認めることとしたのは,労働者の死亡について保険給付を行い,その遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的にかんがみ,遺族厚生年金の受給権者で
ある配偶者について,必ずしも民法上の配偶者の概念と同一のものとしなければならないものではなく,被保険者等との関係において,互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者にこれを支給することが,遺族厚生年金の社会保障的な性格や法の上記目的にも適合すると考えられたことによるものと解される。
他方,厚生年金保険制度が政府の管掌する公的年金制度であり(法1条,2条),被保険者及び事業主の意思にかかわりなく強制的に徴収される保険料に国庫負担を加えた財源によって賄われていること(法80条,82条)を考慮すると,民法の定める婚姻法秩序に反するような内縁関係にある者まで,一般的に遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者に当たると解することはできない。
(2) ところで,民法734条1項によって婚姻が禁止される近親者間の内縁関係は,時の経過ないし事情の変化によって婚姻障害事由が消滅ないし減退することがあり得ない性質のものである。しかも,上記近親者間で婚姻が禁止されるのは,社会倫理的配慮及び優生学的配慮という公益的要請を理由とするものであるから,上記近親者間における内縁関係は,一般的に反倫理性,反公益性の大きい関係というべきである。殊に,直系血族間,二親等の傍系血族間の内縁関係は,我が国の現在の婚姻法秩序又は社会通念を前提とする限り,反倫理性,反公益性が極めて大きいと考えられるのであって,いかにその当事者が社会通念上夫婦としての共同生活
を営んでいたとしても,法3条2項によって保護される配偶者には当たらないものと解される。そして,三親等の傍系血族間の内縁関係も,このような反倫理性,反公益性という観点からみれば,基本的にはこれと変わりがないものというべきである。
(3) もっとも,我が国では,かつて,農業後継者の確保等の要請から親族間の結婚が少なからず行われていたことは公知の事実であり,前記事実関係によれば,上告人の周囲でも,前記のような地域的特性から親族間の結婚が比較的多く行われるとともに,おじと姪との間の内縁も散見されたというのであって,そのような関係が地域社会や親族内において抵抗感なく受け容れられている例も存在したことがうかがわれるのである。このような社会的,時代的背景の下に形成された三親等の傍系血族間の内縁関係については,それが形成されるに至った経緯,周囲や地域社会の受け止め方,共同生活期間の長短,子の有無,夫婦生活の安定性等に照らし,反倫理性,反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には,上記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきである。したがって,このような事情が認められる場合,その内縁関係が民法により婚姻が禁止される近親者間におけるものであるという一事をもって遺族厚生年金の受給権を否定することは許されず,上記内縁関係の当事者は法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当すると解するのが相当である。
なお,被上告人の引用する判例(最高裁昭和59年(行ツ)第335号同60年2月14日第一小法廷判決・訟務月報31巻9号2204頁)は,事案を異にし本件に適切でない。
(4) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,上告人とAとの内縁関係は,Dの養育を主たる動機として形成され,媒酌人を立て,新婚旅行,親戚間の祝宴を経て,地元町長やAの職場の長もその成立を認証したというのであり,当初から反倫理的,反社会的な側面をもったものとはいい難く,親戚間では抵抗感なく承認され,地域社会やAの職場でも公然と受け容れられていたものである。また,上告人とAは,その後2人の子にも恵まれ,Aの死亡まで約42年間にわたり円満な夫婦生活を安定的に継続したというのであり,その間,上告人は,共済組合の短期給付,国民健康保険及び源泉徴収の面でAの内縁の妻として扱われていたこ
とがうかがわれるのである。これらの事情からすれば,上記内縁関係の反倫理性,反公益性は,婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いものであったと認められる。
そうすると,上告人とAとの内縁関係については,上記の特段の事情が認められ,上告人は,法3条2項にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当し,法59条1項本文により遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者に当たるものというべきである。

このように成立した内縁関係が近親婚の場合は原則として反倫理的,反社会的な行為であり遺族年金の受給権が否定されます。
しかし、その行為が行われた当時の諸事情を勘案して、反倫理的,反社会的な行為であったとは言えない特別な事情がある場合には例外的に受給権が認められることになります。

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください

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