私は箕面市内で事業をしています。業態は異なるのですが同じく箕面市内で事業をしている知人に対して6000万円を事業の運転資金として融資していたのですが、返済が滞りがちになってきたので、貸金の回収方法を考えていました。
ところが、最近になってその知人が離婚して妻に2000万円もの財産分与を行ったという話を聞きました。
こちらへの返済も滞っているのに、そのような大金を財産分与に回す余裕はないはずです。これは一種の財産隠しなのではないでしょうか。
なんとかして知人の妻から2000万円を回収できないでしょうか。
離婚に伴う財産分与が正当なものであれば、原則として取り戻すことは難しいと思われます。
ただ、その財産分与の額が夫婦の共同財産の清算を考慮しようとした民法768条3項の趣旨に反するほど過大であり、財産分与に仮託してされた財産分与であると認めるに足りる特段の事情があれば、その財産分与を詐害行為として取り消すことができるとされています。
なので、その知人の方の財産、生活状況、離婚の時期、原因等に照らして、2000万円という金額が不当であれば取り消すこともできます。
離婚に伴う財産分与は詐害行為取消の対象となるのか
このような財産分与が詐害行為取消権の対象となるのかについて最高裁判所は次のように判断しています。
最高裁判所で問題となった事件の概要は次のようなものでした。
一 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
最判平成12年3月9日 民集 第54巻3号1013頁
1 被上告人は、Dに対し、平成三年五月一五日に貸し付けた貸金債権を有し、これにつき、Dから被上告人に六〇〇五万九七一四円及び内金五九二八万一三九六円に対する平成四年二月一四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払うべき旨の確定判決を得ている。
2 Dは、E株式会社(以下「訴外会社」という。)の取締役であったところ、多額の負債を抱えて借入金の利息の支払にも窮し、平成四年一月末、訴外会社の取締役を退任し、収入が途絶え、無資力となった。
3 上告人とDは、平成二年一〇月ころから同居し、平成三年一〇月五日、婚姻の届出をしたが、Dは、働かずに飲酒しては上告人に暴力を振るうようになり、平成六年六月一日、上告人と協議離婚した。
4 上告人とDは、他の債権者を害することを知りながら、平成六年六月二〇日、Dが上告人に対し、生活費補助として同月以降上告人が再婚するまで毎月一〇万円を支払うこと及び離婚に伴う慰謝料として二〇〇〇万円を支払うことを約し(以下、「本件合意」という。)、これに基づき、執行認諾文言付きの慰謝料支払等公正証書が作成された。
5 被上告人は、Dに対する前記確定判決に基づき、大阪地方裁判所に対し、前記貸金債権の内金五〇〇万円を請求債権として、Dの訴外会社に対する給料及び役員報酬債権につき差押命令を申し立て、同裁判所は、平成七年八月二三日、差押命令を発した。
上告人は、Dに対する前記公正証書に基づき、大阪地方裁判所に対し、生活費補助二二〇万円及び慰謝料二〇〇〇万円の合計二二二〇万円を請求債権として、Dの訴外会社に対する給料及び役員報酬債権につき差押命令を申し立て、同裁判所は、平成八年四月一八日、差押命令を発した。
6 訴外会社は、平成八年六月二四日、大阪法務局に二六一万〇四三三円を供託した。
7 大阪地方裁判所は、上告人と被上告人の各配当額を各請求債権額に応じて案分して定めた配当表(以下「本件配当表」という。)を作成したところ、被上告人は、配当期日において、異議の申出をした。
二 本訴において、被上告人は、主位的請求として、本件合意が通謀虚偽表示により無効であるとして、本件配当表につき、全額を被上告人に配当するよう変更することを求め、予備的請求として、詐害行為取消権に基づき、上告人とDとの間の本件合意を取り消し、本件配当表を同様に変更することを求めた。
これに関しての最高裁判所の判断は次の通りです。
1 本件合意は、Dが上告人に対し、扶養的財産分与の額を毎月一〇万円と定めてこれを支払うこと及び離婚に伴う慰謝料二〇〇〇万円の支払義務があることを認めてこれを支払うことを内容とするものである。
2 離婚に伴う財産分与は、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない(最高裁昭和五七年(オ)第七九八号同五八年一二月一九日第二小法廷判決・民集三七巻一〇号一五三二頁)。
このことは、財産分与として金銭の定期給付をする旨の合意をする場合であっても、同様と解される。
そして、【要旨一】離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきものと解するのが相当である。
3 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない。
しかしながら、【要旨二】当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
4 これを本件について見ると、上告人とDとの婚姻の期間、離婚に至る事情、Dの資力等から見て、本件合意はその額が不相当に過大であるとした原審の判断は正当であるが、この場合においては、その扶養的財産分与のうち不相当に過大な額及び慰謝料として負担すべき額を超える額を算出した上、その限度で本件合意を取
り消し、上告人の請求債権から取り消された額を控除した残額と、被上告人の請求債権の額に応じて本件配当表の変更を命じるべきである。これと異なる見解に立って、本件合意の全部を取り消し得ることを前提として本件配当表の変更を命じた原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中被上告人の予備的請求に関する部分は破棄を免れない。
このように離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきものとなり、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐害行為取消権行使の対象となり得ると考えられています。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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