私の知人から、親が亡くなって豊中市内の不動産を相続したが、その不動産に自分たち相続人は住むつもりはないので、誰か買い取ってくれる人を探しているという相談を受けました。
私はちょうど探していた条件に合う物件でしたので、私で良ければ買うということを伝えると、そのまま話は進み、その知人と他の相続人との間で、不動産の売買契約を締結しました。
その後、代金の一部を支払う代わりに知人の持ち分の一部については登記も経たのですが、残りの代金を支払っても、残りの共有持ち分の登記がされません。
そこで、その知人と相続人を相手取って、相続人の共有持分権の登記を移転すること、それができないのであれば、私が知人から買い受けた持分に基づいて共有物の分割を行うことを求めて訴えを起こそうと思っています。
このような訴えは認められるのでしょうか。
まず、お聞きした内容からすると、売買契約を結んだ知人の方の持ち分については残りの持ち分の登記を移転することを求めていくことはできると思われます。
しかし、他の相続人の方々の持ち分については本当にその知人の方に他の相続人から代理権が与えられていたのかが問題になります。代理権が与えられておらず、知人の方が勝手に売買契約を結んでいたのだとしたら、原則として持分の登記を移転しろという請求は難しいと思われます。この場合は、以前に代理権が与えられていたのかや、取引の経緯等を詳細に検討する必要があります。
また、その知人の方を含めて相続人全員を相手に共有物の分割を求めていくことはできないと考えます。
特定の相続財産の持ち分を譲り受けた者による分割請求の可否
この問題について最高裁判所は次のように判断しました。
事案は次のようなものです。
原告は被告の1人から被告が相続した財産中の特定の不動産の持ち分及びその他の相続人の持ち分をすべて買い受けた。
しかし、その不動産の登記の移転が一部しかされないため、相続人らの残りすべての持ち分の移転登記を求め、さらに、この請求が認められない場合には共有物の分割を求めるというものでした。
まず、この請求の前提として民法905条1項が「共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。」と定めていることが、特定財産上の共有持分の譲渡にも適用されるのかが問題となりますが、最高裁判所はこれを否定しました。
共同相続人の一人が遺産を構成する特定の不動産について同人の有する共有持分権を第三者に譲り渡した場合については、民法九〇五条の規定を適用又は類推適用することはできないものと解すべきである。これと同旨の原審の判断は正当であつて原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
最判昭和53年7月13日 集民第124号317頁
これは、共同相続財産全体に対する包括的な持ち分である相続分の譲渡には905条の適用があるが、本事案で問題となっている共同相続人による特定の相続財産上の共有持分権の譲渡は、上記相続分の譲渡は異なるものであるから905条の適用はないということです。
続いて第2の請求については次のように判断しました。
一 本訴における被上告人の上告人らに対する予備的請求は、被上告人が上告人らの先代亡Dの遺産に属する原判決別紙第二目録記載の各土地について共同相続人の一人である上告人Aが有していた共有持分権六分の二の半分、すなわち六分の一を取得しその共有者となつたと主張し、上告人らとの間で民法二五八条に基づき右
各土地を分割し、原判決別紙第一目録記載の各土地(以下「本件係争地」という。)を被上告人の所有と定めることを求めるとともに、右のように定められることを条件として上告人らに対し本件係争地につきそれぞれ共有物分割を原因とする共有持分の移転登記手続を求めるものである。
そうして、右請求につき、第一審は、共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が共同相続人間の協議又は家庭裁判所の審判手続による遺産分割前に右特定不動産について共有物分割の訴を提起することは許されないことを理由として、共有物分割を求める部分の訴を不適法として却下するとともに、分割を前提とした持分移転登記手続を求める請求を理由なしとして棄却したが、これに対し、原審は、右予備的請求を適法と解し、右請求の全部につき第一審判決を取り消して第一審に差し戻す旨の判決をしたことが明らかである。
二 しかしながら、原審の確定した事実関係によれば、上告人Aと上告人Aからの買主で被上告人に対する売主でもある訴外Eとの間で締結された売買契約の目的となつた土地は、第二目録記載の土地全部ではなく、同目録記載の土地のうち本件係争地のみであり、したがつて、被上告人がEから買い受けて取得した権利は上告
人Aが本件係争地について有していた共有持分権六分の二にすぎないというのである。
そうだとすると、被上告人は、第二目録記載の土地中本件係争地を除くその余の土地については共有持分権を有しない筋合であるから、右土地部分については共有物分割の訴を提起する当事者適格を有せず、したがつて、該訴を不適法として却下し、また、右分割を前提とする共有持分移転登記手続請求を理由なしとして棄却した第一審判決は、右土地部分についての請求に関しては結局正当であることに帰し、原審は、その限度では被上告人の上告人らに対する控訴を棄却すべきものであつたというべきである。
してみれば、原判決には右の点において共有物分割の訴における当事者適格の解釈を誤つたか、又は理由齟齬の違法をおかしたことになるから、同旨をいう論旨は理由があり、原判決主文第一項中、原判決別紙第二目録記載の土地のうち本件係争地を除く部分につき第一審判決を取り消した部分は破棄を免れな
い。
次に、職権をもつて調査すると、訴外Eが本件係争地につき上告人Aが有していた共有持分権六分の二を同上告人から買い受け、次いで同訴外人からさらに被上告人がこれを買い受けたことは前記説示のとおりである。そうだとすると、上告人Aは、本件係争地についてはもはや共有持分権を有しないことに帰するから、その共
有物分割の訴につき当事者適格を有しないことは明らかであり、したがつて、本件共有物分割の訴を不適法として却下し、また、右分割を前提とする共有持分移転登記手続請求を理由なしとして棄却した第一審判決は上告人Aとの関係においては本件係争地部分に関しても結局正当であるから、原審は、被上告人の上告人Aに対する控訴をこの点についても棄却すべきものであつたというべきである。
してみれば、原判決には右の点においても共有物分割の訴に関する当事者適格の解釈を誤つた違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決主文第一項中、本件係争地につき第一審判決を取り消した部分は上告人Aとの関係においては破棄を免れない。
そうして、以上の説示によれば、第一審判決中、原判決別紙第二目録記載の土地のうち本件係争地を除くその余の土地につき、共有物分割の訴を却下し、右分割の訴を前提とする共有持分の移転登記手続請求を棄却した判断は上告人ら全部との関係において、また、本件係争地につき、共有物分割の訴を却下し、右分割を前提と
する共有持分の移転登記手続請求を棄却した判断は上告人Aとの関係において、いずれも結局正当であつて、被上告人の控訴は理由がないことに帰するからこれを棄却すべきである。次に、原判決中、(1)被上告人の主位的請求につき上告人Aに対する関係において本件係争地の共有持分六分の一の移転登記請求を認容した部分に対する上告人Aの上告並びに(2)被上告人の予備的請求のうち、六分の一の共有持分権に基づき本件係争地の分割を求める訴及び右分割を前提として共有持分移転登記手続を求める訴についてされた第一審判決を取り消し第一審に差し戻すべきものとした部分に対する上告人Aを除くその余の上告人らの上告は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
この判断によると、今回のご相談でも既にその持分を譲渡しているご相談者の知人を含めて共有物の分割を請求することはできないと思われます。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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