箕面市 O.Y.さん

私は妻と結婚した後に箕面市に家を買って、住んでいました。
結婚後2年して子供もでき、家族で平穏に暮らしていたのですが、私と妻の双方ともに仕事が忙しくなったこともあり、すれ違いの生活が続き、話し合いの結果、離婚することにして離婚届も作成しました。
その後、離婚届は話し合いに立ち会った妻の友人が提出することになっていましたので、その方に預けていました。
ただ、私がもっと妻に譲歩すればやり直せるのではないかと考え、離婚はやはり止めようと思うに至りました。
そして、離婚を取りやめる旨を妻の友人にも伝えたのですが、妻が離婚すると言っており、私も離婚届にいったんは合意したでしょうと言われて、離婚届を提出されてしまいました。
このような離婚届は無効にならないのでしょうか。

司法書士

離婚届には離婚をする意思が必要であり、届け出がなされた時点で離婚意思がなかった場合は、その届け出による離婚は無効を考えられています。
なので、ご相談においても、離婚届を預かっていた方に離婚を翻意する旨を明確に伝えている以上、届け出の時点で離婚する意思は無かったのですから、離婚は無効になると思われます。

離婚届作成後に離婚を翻意した場合の離婚届の効力

離婚届作成後に離婚を翻意した場合の離婚届の効力について次のような事案で、最高裁判所は次のように判断しました。
原審の引用する第一審判決によれば、本件協議離婚届書は判示の如き経緯によつて作成されたこと、右届出書の作成後被上告人は右届出を上告人に委託し、上告人においてこれを保管していたところ、その後右届出書が光市長に提出された昭和二七年三月一一日の前日たる同月一〇日被上告人は光市役所の係員Dに対して上告人から離婚届が出されるかもしれないが、被上告人としては承諾したものではないから受理しないでほしい旨申し出でたことおよび右事実によると被上告人は右届出のあつた前日協議離婚の意思をひるがえしていたことが認められるというのであつて、
右認定は当裁判所でも肯認できるところである。

上告人から届出がなされた当時には被上告人に離婚の意思がなかつたものであるところ、協議離婚の届出は協議離婚意思の表示とみるべきであるから、本件の如くその届出の当時離婚の意思を有せざることが明確になつた以上、右届出による協議離婚は無効であるといわなければならない。

最判昭和34年8月7日 民集第13巻10号1251頁

また、離婚を翻意したことが相手方などに通知されることも必要ではないとされています。

(続き)そして、かならずしも所論の如く右翻意が相手方に表示されること、または、届出委託を解除する等の事実がなかつたからといつて、右協議離婚届出が無効でないとはいいえない。
-中略-
原判決挙示の関係証拠中、証人Dの「離婚届出の前、昭和二七年三月一〇日と思う(届書を受付ける前であることは確実である)が被上告人から戸籍吏員たる同証人に対し上告人との離婚届が出されるかも知れないが被上告人としては承諾したものではないのだから受理しないでほしいとの申入れがあつた」旨の証言(記録四四丁裏)によれば、被上告人が協議離婚を翻意した事実を充分に推認することができるから原審に所論の違法はない。

また、この件に関しては次のような補足意見もあります。

原判決は「協議離婚は市町村長に対してこれを届出でて始めてその効力を生ずる身分上の要式行為であるから市町村長に対して届出がなされた当時に夫婦ともに協議離婚をしょうとする意思を保有することが必要であつて、たとえ、協議離婚の合意が成立して当事者双方署名捺印した届書を作成してもこれを市町村長に提出した
当時離婚の意思を有しなくなつた場合はその届書の提出を依頼(委任)された者にその委任を解除したかどうか、又その依頼を受けた者が当事者の意思の変更を知ると否とを問はずこの届出は、本人の意思に基かないものであるから無効と解するのを相当とする」と判示している。
若しも原判決の判意が、離婚届出書作成当時、すなわち届出書に当事者双方が署名捺印をした当時、当事者に離婚の意思がありその合意が成立したとしても、本件のようにその市町村長に対する届出を他人に托した場合、この届出書がその他人によつて市町村長に提出された当時において、当事者が離婚の意思を有しなくなつた場合は、それだけで、その届出は本人の意思にもとづかないものとして離婚は無効であるとする趣意であるならば甚だ疑問であるとしなければならない。
離婚の合意は届出書作成のときに正当に成立したのである。この合意を届出書という形式によつて市町村長に届け出ることによつて離婚は当然に効力を発生するのである。
そして、その届出行為を他人に依頼してその届出書をその他人に托した後において、本人が内心、変心してその他人が届出行為を実行する瞬間において、たまたま本人が離婚の意思をなくしていたとしても、それだけの事実で、その届出が当然無効となるものではない。
離婚意思の喪失によつて届出による離婚の効力の発生を阻止するためには、届出の受理される以前に、届出による表示行為の効力の発生を妨げるに足りるなんらかの行為がなされなければならないものと解する。
ところが本件においては原判決の認定するところによれば、被上告人(原告)は右届出提出の前日頃市役所に来て係員に対して上告人(被告)から離婚届が出されるかも知れないが被上告人としては承諾したものでないから受理しないでくれと申し入れをしたというのであつて、この申し入れによつて、右届出撤回の意思は当該
吏員に対し明瞭に通達されたと解することができるのであるから、これによつて、本件離婚の届出は遂にその効力を発生するに至らなかつたものと解すべきであると思料する。

藤田裁判官の補足意見

現在では戸籍法27条の2第3項、第4項によって、届け出の不受理申出制度があります。
この制度により、届け出は受理されないことになるので、離婚届提出前に離婚を翻意した場合は、不受理申出を行うことになります。

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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