私は早くに親を亡くしておりまして、夫と結婚する前に父が豊中市内に所有していた土地を相続しています。
夫は会社を経営しているのですが、会社の債務を弁済するために私に無断で私名義の豊中市の不動産を売却してしまいました。
私は夫に代理権を認めたことはありませんので、この売買を取り消したいのですが、できるでしょうか。
夫に代理権を認めたことがないというのであれば、基本的には売買契約は無効になります。ただ本当に例外的なことになりますが、事情によっては代理権があったものとして扱われることもあるので注意が必要です。
日常家事に関する代理権と表見代理に関する判例
民法113条1項は「代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。」と定めていますので、代理権を与えていない者による法律行為は無効になります。
ただし、代理権を与えられていないのに与えられたかのように装ってなされた法律行為の相手方も事情によっては保護しなければなりませんので「前条第一項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。(民法110条)(民法109条「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。」)」として一定の場合には代理権があるものとして扱われることがあります。
そして夫婦間に関しては民法761条が「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。」として一定の代理権を認めていることから、夫婦間の代理に関してはどのような場合に法律行為の相手方が保護されるのかが問題とされてきました。
そして、この問題へ回答したのが次の最高裁判所の判決です
民法七六一条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
そして、民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべ
きであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対
しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。(そして、判例の事案について次のように判断しました。)
原審の確定した事実関係、とくに、本件売買契約の目的物は被上告人の特有財産に属する土地、建物であり、しかも、その売買契約は上告人の主宰する訴外株式会社E商会が訴外Dの主宰する訴外株式会社F商店に対して有していた債権の回収をはかるために締結されたものであること、さらに、右売買契約締結の当時被上告人は右Dに対し何らの代理権をも授与していなかつたこと等の事実関係は、原判決挙示の証拠関係および本件記録に照らして、首肯することができないわけではなく、そして、右事実関係のもとにおいては、右売買契約は当時夫婦であつた右Dと被上告人との日常の家事に関する法律行為であつたといえないことはもちろん、その契約の相手方である上告人においてその契約が被上告人ら夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由があつたといえないことも明らかである。
最判昭和44年12月18日 民集第23巻12号2476頁
このように夫婦間の代理権の「その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異な
り、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なる」とされていますが、一般的には不動産の売買について夫婦間の代理権が認められることはないと思われます。
そして「当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり」保護されるとされていますが、不動産売買の相手方が夫婦間に不動産売買の代理権があると信じることについて正当な理由があるということもまれではないかと考えます。
そこで、事情には寄りますが、ご相談でも通常は売買は無効になるとは思われます。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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