私は兄、弟の3人兄弟で両親は既に他界しています。私の弟は両親より先に幼い子供を残して亡くなっているのですが、今回相談したいのはその子供ことです。
私の父の相続のときに弟が受け継ぐはずだった箕面市にある土地と建物は甥が相続しました。弟の遺児ですので、生活に困らないように相続財産の分配も考えてのことでした。
ただ、その後、兄の会社が融資を受ける際に、その箕面市の不動産に抵当権が設定されたようなのです。
兄と弟の妻に話を聞くと甥を代理して抵当権を設定したとのことでした。
せっかく甥のことを考えて父の遺産分割を行ったのに、これでは台無しにされたと思えてなりません。
兄がよく甥たちの世話をしていたのは分かるのですが、それでも納得はいかず、このような抵当権の設定は無効にできないのでしょうか。
代理権の濫用も事情によっては認められるかもしれませんが、裁判所は親権者に広範な代理権を認めています。
なので単に子供に経済的な利益をもたらすものではないというだけでは権利に濫用として抵当権の設定が無効にされるべきであるとの主張は難しいかもしれません。
親権者による法定代理権の行使が権利の濫用になる可能性
親権者が未成年の子供を代理して、その子供名義の土地に叔父の会社名義が債務者となる抵当権を設定したという事案について裁判所は次のように判断しました。
原審が確定した事実関係の大要は、次のとおりである。
1 本件土地は、もと被上告人の祖父D(以下「D」という。)の所有に属していた。Dには、妻E並びに長男F(以下「F」という。)及び二男G(以下「G」という。)外の子がおり、Fには、妻H(以下「H」という。)並びに長男の被上告人及び長女Iがいた。
Dが昭和五一年六月九日に、Fが同年九月三日に、Eが同五二年一月九日に相次いで死亡したため、Gを中心にしてDらの遺産についての分割協議がされ、本件土地並びにDの住居であった建物及びその敷地などを被上告人が取得し、賃貸中の集合住宅及びその敷地などをHが取得することを内容とする協議が成立した。そして、Gは、その後、Hの依頼を受けて、右協議に基づく各登記手続を代行し、Hが取得した右集合住宅の管理をするなど、諸事にわたりHら母子の面倒をみていた。
2 昭和五八年ないし同五九年当時、被上告人は未成年者であり、被上告人の母Hが親権者であった。
3 Hは、被上告人の親権者として、上告人に対し、昭和五八年一〇月三一日、被上告人の所有する本件土地につき、上告人が株式会社J(Gが代表者として経営する会社。以下「J」という。)に対して保証委託取引に基づき取得する債権を担保するため、債権極度額八四〇〇万円を最高限度とする根抵当権を設定することを承諾した。
そして、Hは、Gに対し、Hを代行して、右合意につき契約書を作成すること及び登記手続をすることを許容していたところ、Gは、Hを代行して、債権極度額を三〇〇〇万円とする同年一一月九日付け根抵当権設定契約証書(乙第一号証)を作成した上、根抵当権設定登記手続をした。
4 Hは、被上告人の親権者として、上告人に対し、昭和五九年二月二二日、右根抵当権の債権極度額を三〇〇〇万円から四五〇〇万円に変更することを承諾した。
そして、Gは、3と同様にHを代行して、債権極度額を三〇〇〇万円から四五〇〇万円に変更する旨の同月二五日付け根抵当権変更契約証書(乙第二号証)を作成した上、右根抵当権変更の付記登記手続をした。
5 Jは、株式会社K銀行(以下「K銀行」という。)から、昭和五八年一一月一一日に二五〇〇万円を、同五九年二月二五日に一五〇〇万円を借り受けたが、その使途はJの事業資金であって、被上告人の生活資金、事業資金その他被上告人の利益のために使用されるものではなかった。また、被上告人とJとの間には格別の
利害関係はなかった。
6 上告人は、5のJの各借受けにつき、Jとの間で信用保証委託契約を結び、K銀行に対し、Jの右各借受金債務を保証する旨約した。
7 上告人は、3の根抵当権設定契約及び4の極度額変更契約(以下両契約をまとめて「本件各契約」という。)の締結に際し、5の事実を知っていた。二 原審は、右事実関係の下において、Hが被上告人の親権者として本件各契約を締結した行為は、専ら第三者であるJの利益を図るものであって、親権の濫用に当たるところ、上告人は、本件各契約の締結に際し、右濫用の事実を知っていたのであるから、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、被上告人には本件各契約
の効果は及ばないと判断して、被上告人の請求を理由があるとした。三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
最判平成4年12月10日民集 第46巻9号2727頁
1 親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為につき子を代理する権限を有する(民法八二四条)ところ、親権者が右権限を濫用して法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は
子には及ばないと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇二五号同四二年四月二〇日第一小法廷判決・民集二一巻三号六九七頁参照)。
2 しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子をめぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきである。
そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しない限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべきである。
したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に供する行為について、それが子自身に経済的利益をもたらすものでないことから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用に当たると解するのは相当でない。
このように親権者の代理権行使について「それが子の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情」があるのであれば代理権の濫用にあたることになります。
そして代理権の濫用にあたれば無権代理行為となり、成人後に本人がその行為を承諾しない限り有効な代理権行使とはなりません。
(代理権の濫用)
第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。
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