豊中市 H.K.さん

私は豊中市に住んでいる友人にお金を貸しており、その友人が所有している不動産に抵当権を付ける契約も交わしていました。
ここで問題が起きたのですが、抵当権の登記をする前に、その友人が亡くなってしまいました。友人には相続人はおらず、相続財産の管理人という方が事後処理を行っているようです。
そこでお聞きしたいのですが、今から相続財産管理人に対して抵当権を登記するように求めることはできるのでしょうか。
友人は私の他にいくつか借入先があったようなので、せめて抵当権を設定してその分だけでも優先して貸したお金を回収したいのですが。

司法書士

残念ながら、お金を貸した相手がお亡くなりになった後に相続財産管理人に対して、抵当権の設定を求めることはできません。
たとえ生前に抵当権の設定契約を交わしていたとしても同じことになります。

1.相続人が誰もいない場合の相続財産

相続人が誰もいない状況で人が亡くなると、その人の財産は相続財産法人となり、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が事後処理を行うことになります。
そして、この場合の清算手続きには限定承認に関する規定が適用されます。

(公告期間満了後の弁済)
第九百二十九条 第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。
2 第九百二十七条第二項から第四項まで及び第九百二十八条から第九百三十五条まで(第九百三十二条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。

このように相続財産管理人は民法929条ただし書きによって「優先権を有する債権者の権利を害することはできない」とされているので、生前の抵当権設定契約の履行を管理人に求めていくこともできそうですが、次に挙げるように最高裁判所はできないと判断しました。

2.相続財産管理人への抵当権設定請求

1 相続人が存在しない場合(法定相続人の全員が相続の放棄をした場合を含む。)には、利害関係人等の請求によって選任される相続財産の管理人が相続財産の清算を行う。管理人は、債権申出期間の公告をした上で(民法九五七条一項)、相続財産をもって、各相続債権者に、その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない(同条二項において準用する九二九条本文)。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することができない(同条ただし書)。
この「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要すると解するのが相当である。
相続債権者間の優劣は、相続開始の時点である被相続人の死亡の時を基準として決するのが当然だからである。この理は、所論の引用する判例(大審院昭和一三年(オ)第二三八五号同一四年一二月二一日判決・民集一八巻一六二一頁)が、限定承認がされた場合について、現在の民法九二九条に相当する旧民法一〇三一条の解釈として判示するところであって、相続人が存在しない場合についてこれと別異に解すべき根拠を見いだすことができない。
したがって、相続人が存在しない場合には(限定承認がされた場合も同じ。)、相続債権者は、被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても、被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ、他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし、被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても、これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。
2 相続財産の管理人は、すべての相続債権者及び受遺者のために法律に従って弁済を行うのであるから、弁済に際して、他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして、優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると、そのことがその相続財産の換価(民
法九五七条二項において準用する九三二条本文)をするのに障害となり、管理人による相続財産の清算に著しい支障を来すことが明らかである。
したがって、管理人は、被相続人から抵当権の設定を受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきである。
以上の理由により、相続債権者は、被相続人から抵当権の設定を受けていても、被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き、相続財産人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解するのが相当である。限定承認がされた場合における限定承認者に対する設定登記手続請求も、これと同様である(前掲大
審院判例を参照)。なお、原判決の引用する判例(最高裁昭和二七年(オ)第五一九号同二九年九月一〇日第二小法廷判決・裁判集民事一五号五一三頁)は、本件の問題とは事案を異にし、右に説示したところと抵触するものではない。
3 したがって、被上告人には、本件根抵当権につき、上告人に対し、本件仮登記に基づく本登記手続を請求する権利がないものというべきである。

最判平成11年1月21日 民集53巻1号128頁

このように最高裁判所は民法929条ただし書きの「「優先権を有する債権者の権利」に当たるというためには、対抗要件を必要とする権利については、被相続人の死亡の時までに対抗要件を具備していることを要すると解するのが相当である。」としており、相続財産の「管理人は、被相続人から抵当権の設定を受けた者からの設定登記手続請求を拒絶することができるし、また、これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきである」と判断しました。

この判断を前提とすると、生前に少なくとも仮登記まではなされていなければならず、何らの登記もない場合に被相続人の死後に相続財産管理人に対して抵当権の設定を請求することもできないことになります。
ご相談の件でも、もはや抵当権の設定を請求することはできませんので、他の債権者と均等割合で相続財産を分け合うことになります。

この記事は上記判決をモデルにした架空の事例です。
また、記事掲載時の法令・判例に基づいています。
ご覧の時点で裁判所の判断に合致しないこともありますのでご留意ください。

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